【一年三組の皇帝~拾~】
文字数 1,083文字
教室内は熱気に包まれていた。
狂喜、絶望、吐息に汗、あらゆる体臭が漂って来そうな熱気が教室の片隅で轟いていた。この日はインディアンポーカーの日だった。みな一様に自分の顔の斜め前に一枚のトランプを掲げて、周りの様子を伺っていた。
いや、インディアンポーカーというのは、今この教室内では正しい名前じゃない。
このゲームはうちのクラスでは『ネイティブ』と称されていた。
というか、インディアンポーカーという名称は精々ぼくがゲームに誘われた時に口にしたくらいだろう。だが、正式名称を知らない人が殆どで、みんなからワケがわからないといった様子で顔を覗き込まれたのがオチだった。
この『ネイティブ』という呼び方を最初にしたのは関口だった。恐らく『ポーカー』という名前を使いたくなかったのだろう。プラス、インディアンという名前を残せば、その時点でゲームのことを調べるヤツが出てくるかもしれない。そして『インディアンポーカー』という名前にたどり着き、その名前が何処からか漏れて先生の耳に届けば、あまりいい印象は持たれないだろうし、下手すれば一発禁止の憂き目に遭うかもしれない。
では、何故『ネイティブ』なのか。
それは多分だけど、『インディアン』という呼び方を改めた『ネイティブ・アメリカン』が元になっているのだと思う。だが、これが上手い。まず、『ネイティブ』という名前を聴いたところで、それが『インディアンポーカー』だとわかる先生はまずいないだろう。ヤエちゃんがその内容について知っているのも、ぼくがいったからこそだった。
そんな『ネイティブ』のゲームテーブルが盛り上がらないことは殆どない。それも男女入り乱れて、である。それは関口の口の上手さが何よりも影響していたのだろう。関口は人のこころを掴むのが非常に上手かった。話術に長け、人が欲するモノを見抜き与える技量が優れていた。
そして、ぼくはまた今日も不愉快な光景を目にすることになった。
田宮が声を上げ悔しさをアピールしている。
そう、田宮はこのゲームに熱中し、かなり負けが込んでいる。その結果、多大な『負債』を背負うこととなってしまった。ぼくや和田からは辞めるよういわれたのだが、田宮がいうには、勝って取り戻すとのことらしいが、そんな勝負が上手く行くワケがない。
最初こそ勝ち越していた田宮も、徐々に勝ちを減らしていき、いつの間にか負け越し。今では完全に自分の身を関口たちのグループに売り渡しているような状況だった。
どうしてこんなことにーーぼくはため息をついた。ふと目を叛けるとぼくの目にまた別の存在が写った。
【続く】
狂喜、絶望、吐息に汗、あらゆる体臭が漂って来そうな熱気が教室の片隅で轟いていた。この日はインディアンポーカーの日だった。みな一様に自分の顔の斜め前に一枚のトランプを掲げて、周りの様子を伺っていた。
いや、インディアンポーカーというのは、今この教室内では正しい名前じゃない。
このゲームはうちのクラスでは『ネイティブ』と称されていた。
というか、インディアンポーカーという名称は精々ぼくがゲームに誘われた時に口にしたくらいだろう。だが、正式名称を知らない人が殆どで、みんなからワケがわからないといった様子で顔を覗き込まれたのがオチだった。
この『ネイティブ』という呼び方を最初にしたのは関口だった。恐らく『ポーカー』という名前を使いたくなかったのだろう。プラス、インディアンという名前を残せば、その時点でゲームのことを調べるヤツが出てくるかもしれない。そして『インディアンポーカー』という名前にたどり着き、その名前が何処からか漏れて先生の耳に届けば、あまりいい印象は持たれないだろうし、下手すれば一発禁止の憂き目に遭うかもしれない。
では、何故『ネイティブ』なのか。
それは多分だけど、『インディアン』という呼び方を改めた『ネイティブ・アメリカン』が元になっているのだと思う。だが、これが上手い。まず、『ネイティブ』という名前を聴いたところで、それが『インディアンポーカー』だとわかる先生はまずいないだろう。ヤエちゃんがその内容について知っているのも、ぼくがいったからこそだった。
そんな『ネイティブ』のゲームテーブルが盛り上がらないことは殆どない。それも男女入り乱れて、である。それは関口の口の上手さが何よりも影響していたのだろう。関口は人のこころを掴むのが非常に上手かった。話術に長け、人が欲するモノを見抜き与える技量が優れていた。
そして、ぼくはまた今日も不愉快な光景を目にすることになった。
田宮が声を上げ悔しさをアピールしている。
そう、田宮はこのゲームに熱中し、かなり負けが込んでいる。その結果、多大な『負債』を背負うこととなってしまった。ぼくや和田からは辞めるよういわれたのだが、田宮がいうには、勝って取り戻すとのことらしいが、そんな勝負が上手く行くワケがない。
最初こそ勝ち越していた田宮も、徐々に勝ちを減らしていき、いつの間にか負け越し。今では完全に自分の身を関口たちのグループに売り渡しているような状況だった。
どうしてこんなことにーーぼくはため息をついた。ふと目を叛けるとぼくの目にまた別の存在が写った。
【続く】