【モノローグ~恨めし屋~】

文字数 2,317文字

 祐太朗の部屋。そこには誰もいない。下手奥に椅子が一脚ある。

「恨めし屋。技術や文明が発達した現代ですら、どんな求人を探しても、そんな名前の仕事は見つからない。当たり前だ。これは闇の稼業、一種の都市伝説として扱われている。仕事の内容は主に三つ。ひとつ、クライアントの依頼で霊をこの世に降ろすこと。ふたつ、悪霊の除霊。そして、三つ、霊の晴らせぬ恨みを晴らすこと。この話は、数あるケースのひとつ、その後日談でしかない。恨めし屋、そこにあるのは地獄か、極楽かーー」

 祐太朗、手をたたく。照明が落ち、再び明るくなると、上手奥へ消えている。

「バカじゃねぇの、お前」

 祐太朗、スマホ片手に入ってくる。

「何でおれがテメエの報告書を書かなきゃいけねぇんだよ。(いいだろ? お前暇だし)暇だろ、じゃねえよボケ。何処の世界に無職に仕事押し付ける警官がいるんだよーー」

 祐太朗、入ってくる美沙を目で追う。

「......あぁ、そこ座れよ。(でも......)いいから、ゆっくりしてな」

 祐太朗、ひとりで誰かに指示をする。

「(どうした?)あぁ、すまねぇ。んなことより、そうだな......。あぁ、じゃあこんなんはどうだよ。『女子高生がストリートで殺された。犯人は依然不明。ガイ者は数日前、同級生の大原美沙を殺した犯人である』ーーどうだ?(お前なぁ、そんな大雑把で、ディテールはどうすんだよ?)ディテールなんか知らねえよ。証拠を隠蔽したのはテメエだろーー大丈夫か?」

 祐太朗、何もない部屋の隅に声を掛ける。

「(どうしたんだよ)あぁ、悪い悪い。(何だよお前、いつも以上に変だぞ)いつも以上は余計だ。でも、本当に何でもねえんだ。(お前、今何処だよ?) 今? 家だよ。(誰かいるのか?)いや、ひとり。(本当か?)だから、ひとりだって。(お前、絶対おれのこと話すなよな?)バカいうなよ。んなこと話すワケーー」

 祐太朗、端に目を走らせ、息をつく。

「......悪ぃけど、切るわ。(もしかして、仕事のことか?)あぁ、そんな感じ。(そうか。じゃあ、また連絡する)あぁ、悪い。じゃーー」

 祐太朗、通話を切りスマホを尻ポケットに仕舞う。

「......大丈夫か?」

 声を掛けた先には誰もいない。祐太朗、構わずひとりで喋り続ける。

「(ううん、ただ、わたし、死んじゃったんだなって思って)......」

 祐太朗、椅子の前に屈み込む。

「美沙」

 祐太朗、そのまま黙って反対側を見続け、おもむろに視線の方向へ歩き出す。

「......辛かったな」

 祐太朗、立ったまま美沙の頭を撫でる。

「......そんな泣くなよ。......まぁ、でも、それも仕方ないか。まだ十八歳だったんだもんな。幽霊がとうとか考えたこともなかっただろうし、それに幽霊なんて怖いとかいわれがちだけど、本当は幽霊ほど孤独な存在もいねえんだから。今、お前のことが見えているのも、おれだけだし、お前と話しているのも、他人が見たらおれのひとりごとにしか映らないーーいや、だから泣くなって。別に死んだからってお前の人生が否定されるワケじゃねえんだ。胸を張れよ。自分の人生は無駄じゃなかった。精一杯生きたんだって。だからーー

 (祐太朗)

 ......あ?

 (ありがとう)

 礼なんてやめろよ。おれはただ自分の仕事でやっただけなんだから。

 (そっか、そうだよね)

 うん......。

 (あーでも、何かスッキリした。これで、良かったんだよね)

 そうかもな。

 (うん......)

 なぁーーこれで、未練は晴れたか?

 (あー、それなんだけどさ)

 うん。

 (実はまだやり残したこと、あるんだ)

 え? まだやり残したことあんのか?

 (うん)

 何だよ、それ。

 (それは、祐太朗の彼女になること)

 はぁ!? 何言ってんの? ダメに決まってるだろ、おれとお前じゃ年が違い過ぎーーいや、そういうことじゃなくて。

 (えー)

 えー、じゃなくてさ。

 (ふふ、冗談だよ)

 じょ、冗談?......驚かせんなよ。

 (んー、でも、友達にはなってよね)

 友達!?

 (うん、友達。なら、全然いいでしょ?)

 ......あぁ、友達。友達な。わかった。じゃあ、そういうことで。

 (やった! じゃあ、また遊びに来てもいいよね?)

 え、遊びに来るって、ここに?

 (いいでしょ? 友達なんだから)

 ......もう勝手にしろよ! 面倒くせえな。

 (そんなこと言わないでよ、友達なんだからさ。それよりさ)

 まだ何かあんのかよ。

 (うん。実はわたし、ちょっとやりたいことあってさ)

 ん? やりたいこと?

 (せっかく幽霊になって身体が自由になったんだし、色んなとこ行きたいなぁ、って)

 へぇ、色んなところに行きたい、か。それもいいんじゃねえかな。誰に邪魔されるってワケでもねえんだしさ。

 (でしょ?)

 あぁ。

 (だから......、ちょっとの間バイバイだね)

 ......うん。そんな悲しそうな顔すんなよ、おれはいつでもここで待ってるから。だから、寂しくなったらいつでも戻って来いよ。

 (ありがとう。じゃあ、またね)

 あぁ。じゃあ、またなーー」

 祐太朗、美沙を上手側玄関へと見送ると、おもむろに客席へ向かう。

「ここ数年、この国の死者数は増加の一途を辿っている。その死者たちが歩んで来た人生が無駄だったとは決して思わないが、恨めし屋なんて仕事をしていると、つくづく思うことがある。それはーー今自分がここで生きていることが本当にラッキーで幸せなことなのかもしれない、ってことだ。......アンタらは、今自分が生きていることが本当に幸福なことかもしれない、と考えたことはあるだろうか?」

 【終幕】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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