【冷たい墓石で鬼は泣く~伍拾~】
文字数 1,121文字
特に息は上がっていなかった。
その時、わたしは四人目と対峙していたが、しんどさはまったくなかった。むしろ、これならば全然余裕があると思っていた。
過去にいくつもの道場にて何人もの武士たちと稽古して来た時と比べたら、この程度は全然だった。あの時は一対一でありながらも乱戦のようなモノだった。勝ち負け関係なく、ひとりと稽古したらまた次の者と稽古、それを何度も何度も繰り返したことを思い返すと、五人とやり合うことなど、着物を洗い干す程度の労力でしかなかった。
ここまで三戦全勝。みな、わたしを前にして緊張しているようだった。アゴを引き、上目遣いでわたしのほうを見ては、木刀をわたしに突き付けるようにして切っ先を前に突き出していた。だが、それが命取りだった。木刀だけでなく、刀を相手に突き付けるようにして構えると身体は刀に支配され、効果的な一撃は打てず、体軸もブレ、動く速さも遅くなってしまう。直参の旗本に遣えているとはいえ、大した腕の持ち主ではないようだった。
ひとり目はわたしの腕前を見極めんばかりに慎重にわたしと向き合っていた。だが、前述の構え方のせいで動きは諸にバレており、真っ向に切り下ろしたモノを受け流して終わり。ふたり目は自信満々で最初からわたしに勝つつもりだったようだが、切っ先と切っ先での先の取り合いを軽く譲ってやり、力が過剰に掛かったところで力を外してやり、体がブレたところで袈裟懸けに首元は木刀を突き付けて終わりだった。三人目は怯えており、半ば捨て身で突きを繰り出して来たところをいなして額の前に木刀を突き付けて終わりだった。どれも一瞬だったこともあって、わたしに疲れる理由はなかった。
そして、四人目である。
この者はガタイが良く、力自慢であるようだった。木刀をブンブン振り回す様を準備の時に見たが、その振りは完全に右手主導の力任せのモノだとわかった。流派としては示現流だろう。ということはーー
始まると同時に相手は一気に突っ込んで来た。予想通りだった。が、わたしは逃げるどころか逆に距離を一気に詰めた。それが相手にとっては思ってもみなかったことだったようで、立派だった攻め気も一気に失せてうしろに退く様子が見えた。後は上からの一撃を受け流せるようにしつつ懐へ潜ってアゴに柄頭をブチ込んで終わりだった。何とも呆気ないモノだった。
四人倒して最後の五人目、わたしの体力は有り余っていた。
「素晴らしい! それでは最後、五人目との手合わせだが、行けるかな?」
藤乃助様がわたしに確認してきたが、その答えはいうまでもなかった。
そして五人目、気だるそうにしている少年がゆったりとわたしの前に立った。
何だか違和感があった。
【続く】
その時、わたしは四人目と対峙していたが、しんどさはまったくなかった。むしろ、これならば全然余裕があると思っていた。
過去にいくつもの道場にて何人もの武士たちと稽古して来た時と比べたら、この程度は全然だった。あの時は一対一でありながらも乱戦のようなモノだった。勝ち負け関係なく、ひとりと稽古したらまた次の者と稽古、それを何度も何度も繰り返したことを思い返すと、五人とやり合うことなど、着物を洗い干す程度の労力でしかなかった。
ここまで三戦全勝。みな、わたしを前にして緊張しているようだった。アゴを引き、上目遣いでわたしのほうを見ては、木刀をわたしに突き付けるようにして切っ先を前に突き出していた。だが、それが命取りだった。木刀だけでなく、刀を相手に突き付けるようにして構えると身体は刀に支配され、効果的な一撃は打てず、体軸もブレ、動く速さも遅くなってしまう。直参の旗本に遣えているとはいえ、大した腕の持ち主ではないようだった。
ひとり目はわたしの腕前を見極めんばかりに慎重にわたしと向き合っていた。だが、前述の構え方のせいで動きは諸にバレており、真っ向に切り下ろしたモノを受け流して終わり。ふたり目は自信満々で最初からわたしに勝つつもりだったようだが、切っ先と切っ先での先の取り合いを軽く譲ってやり、力が過剰に掛かったところで力を外してやり、体がブレたところで袈裟懸けに首元は木刀を突き付けて終わりだった。三人目は怯えており、半ば捨て身で突きを繰り出して来たところをいなして額の前に木刀を突き付けて終わりだった。どれも一瞬だったこともあって、わたしに疲れる理由はなかった。
そして、四人目である。
この者はガタイが良く、力自慢であるようだった。木刀をブンブン振り回す様を準備の時に見たが、その振りは完全に右手主導の力任せのモノだとわかった。流派としては示現流だろう。ということはーー
始まると同時に相手は一気に突っ込んで来た。予想通りだった。が、わたしは逃げるどころか逆に距離を一気に詰めた。それが相手にとっては思ってもみなかったことだったようで、立派だった攻め気も一気に失せてうしろに退く様子が見えた。後は上からの一撃を受け流せるようにしつつ懐へ潜ってアゴに柄頭をブチ込んで終わりだった。何とも呆気ないモノだった。
四人倒して最後の五人目、わたしの体力は有り余っていた。
「素晴らしい! それでは最後、五人目との手合わせだが、行けるかな?」
藤乃助様がわたしに確認してきたが、その答えはいうまでもなかった。
そして五人目、気だるそうにしている少年がゆったりとわたしの前に立った。
何だか違和感があった。
【続く】