【桜までのリミット】
文字数 2,048文字
何かが始まることへのワクワク感といったら、堪らないモノがある。
まぁ、これが仕事がどうとか、学校がどうとかでいうと全然当てはまらないのだけど、やはり、自分が楽しみにしている何かが近づいて来る感覚というのはワクワクして仕方がない。
今のこの自粛が叫ばれている中で、楽しいことが近づいてくる感覚というのは、中々に薄れているようにも思えるけど、その楽しみなモノというのは正直何でもいいと思うのだ。
楽しみにしているテレビやラジオのプログラムでもいい。金曜の夜に家でひとり飲むビールでも何でもいい。そういうモノがあるかないかで、人生は大きく変わる。
かくいうおれはというと、最近は専ら土曜の沖縄空手の稽古と日曜の居合の稽古が楽しみで仕方なかったりする。元来は運動が大嫌いなおれではあるけれど、不思議とこのふたつに関しては何にも苦じゃなかったりする。
それに加えて、まだウイルスが蔓延する前は『ブラスト』の稽古も楽しみのひとつだったのだけど、蔓延後の活動休止以降はそれもなくなってしまったワケで。まぁ、それを埋める理由もあって沖縄空手を始めたんだけどさ。
さて、『遠征芝居篇』の第七回である。まだまだ掛かりそうやね。あらすじーー
「一緒に芝居を打つ劇団の稽古に見学に行くーー森ちゃんの話にドキリとする五条氏。そう、その相手の劇団『不思議なウタゲ』とは、一年前にあったトラブルで、どうも気まずい感じだったのだ。が、いざ稽古に行ってみると、暖かく迎え入れられ、一年間抱き続けたわだかまりも消えてなくなるのだった」
とまぁ、こんな感じ。今日からは稽古篇です。じゃ、やってくーー
遠征から約二週間後の日曜日の昼頃、おれは五村市駅のホームに立っていた。
この日は朝に居合の稽古があり、その後は殆ど初めてといっていい『デュオニソス』の稽古があったのだ。
居合の後ということで、身体中は汗まみれだったけれど、汗を流す時間なんてない。にしても、居合の稽古後に芝居の稽古というのも、ゲストとして出たブラストの公演の時も同じことをしていたので、慣れたモンだった。
電車に乗って、森ちゃんの家のある都内某所へと向かう。電車に乗っている間、おれはスマホのボイスレコーダーアプリに保存しておいたセリフ暗記用の音声を聴いていた。
割とマジな話をすると、おれがセリフを入れるために台本を読むのは、割と初期の段階だけだったりする。
というのも、自分のセリフをほんのりと覚えたら本を放して後は音声だけで覚えてしまうからだ。案外、みんなこのやり方はやらないのだけど、本とにらめっこして自分のセリフを読み上げるよりは、ずっと効率がいい。
そもそも、台本とにらめっこするってやり方だと立ち芝居を意識できなくて、いざ稽古をするとなった時にセリフが出てこなくなることが多くてな。反面、音声だと身体で覚えられるから楽。
まぁ、台本に触れる機会が少ない分、ト書部分に弱くなる嫌いはあるけど、それもすぐ確認できるので、大した問題ではない。
現にこの時点でおれは自分のセリフをほぼほぼ入れていたワケで。準備は万端といった感じだった。
目的の駅に着くと、森ちゃんとよっしーが改札の向こうで既に待っていた。改札を出てふたりに挨拶し、話を聴く。何でも、ゆうこは電車を間違えて少し遅れるとのこと。ドジっ子。
その後、無事にゆうことも合流して四人で稽古場へ。この日の稽古場は、森ちゃんのお母様が勤めているというケアセンターのイベントスペースだった。机等を片付けて早速稽古へ。
稽古始めにちょっとしたインプロ。この日のインプロは抑揚をつけての本の朗読だった。いつも硬茹でな文章を読むことが多いこともあってか、ソフトな文章というのに慣れておらず、地味に上手くいかなかったのは秘密。
インプロも終わり、長机を使って本番の舞台の形状を作り、早速稽古へ移る。
とはいえ、最初の読み稽古からは一ヶ月近くが経っていて、いきなりの立ち稽古ということもあってか、よっしーとゆうこはどことなく不安な感じでいた。
おれはーーセリフを入れてたからな。不安なんてなかった。問題はどう動くかなのだけど、漸く芝居にも慣れ始めていたお陰で、その場その場で動きをつける自信も何となくあった。
で、いざ稽古。いやぁ、楽しくて仕方なかったよな。前回の稽古のように変な恥ずかしさが出るかとも思ったけど、案外大丈夫で。しかも、相手役がよっしーともなるとやり易いし、かつ楽しくて仕方がない。
それと、セリフを殆ど入れていたお陰もあって、すごくやり易かったな。
役者でありながら、演出も務める森ちゃんと話し合いながら芝居を作っていくのも、これで三回目でいい感じで稽古は進行していった。
結果、三時間の稽古時間もあっという間に過ぎ去っていた。
冬樹を演じることに関していえば、まだ全然。動けるし、セリフもほぼ入っているけど、直すべきところは多い。
長いようで短い、短いようで長い戦いが始まった感じだった。
【続く】
まぁ、これが仕事がどうとか、学校がどうとかでいうと全然当てはまらないのだけど、やはり、自分が楽しみにしている何かが近づいて来る感覚というのはワクワクして仕方がない。
今のこの自粛が叫ばれている中で、楽しいことが近づいてくる感覚というのは、中々に薄れているようにも思えるけど、その楽しみなモノというのは正直何でもいいと思うのだ。
楽しみにしているテレビやラジオのプログラムでもいい。金曜の夜に家でひとり飲むビールでも何でもいい。そういうモノがあるかないかで、人生は大きく変わる。
かくいうおれはというと、最近は専ら土曜の沖縄空手の稽古と日曜の居合の稽古が楽しみで仕方なかったりする。元来は運動が大嫌いなおれではあるけれど、不思議とこのふたつに関しては何にも苦じゃなかったりする。
それに加えて、まだウイルスが蔓延する前は『ブラスト』の稽古も楽しみのひとつだったのだけど、蔓延後の活動休止以降はそれもなくなってしまったワケで。まぁ、それを埋める理由もあって沖縄空手を始めたんだけどさ。
さて、『遠征芝居篇』の第七回である。まだまだ掛かりそうやね。あらすじーー
「一緒に芝居を打つ劇団の稽古に見学に行くーー森ちゃんの話にドキリとする五条氏。そう、その相手の劇団『不思議なウタゲ』とは、一年前にあったトラブルで、どうも気まずい感じだったのだ。が、いざ稽古に行ってみると、暖かく迎え入れられ、一年間抱き続けたわだかまりも消えてなくなるのだった」
とまぁ、こんな感じ。今日からは稽古篇です。じゃ、やってくーー
遠征から約二週間後の日曜日の昼頃、おれは五村市駅のホームに立っていた。
この日は朝に居合の稽古があり、その後は殆ど初めてといっていい『デュオニソス』の稽古があったのだ。
居合の後ということで、身体中は汗まみれだったけれど、汗を流す時間なんてない。にしても、居合の稽古後に芝居の稽古というのも、ゲストとして出たブラストの公演の時も同じことをしていたので、慣れたモンだった。
電車に乗って、森ちゃんの家のある都内某所へと向かう。電車に乗っている間、おれはスマホのボイスレコーダーアプリに保存しておいたセリフ暗記用の音声を聴いていた。
割とマジな話をすると、おれがセリフを入れるために台本を読むのは、割と初期の段階だけだったりする。
というのも、自分のセリフをほんのりと覚えたら本を放して後は音声だけで覚えてしまうからだ。案外、みんなこのやり方はやらないのだけど、本とにらめっこして自分のセリフを読み上げるよりは、ずっと効率がいい。
そもそも、台本とにらめっこするってやり方だと立ち芝居を意識できなくて、いざ稽古をするとなった時にセリフが出てこなくなることが多くてな。反面、音声だと身体で覚えられるから楽。
まぁ、台本に触れる機会が少ない分、ト書部分に弱くなる嫌いはあるけど、それもすぐ確認できるので、大した問題ではない。
現にこの時点でおれは自分のセリフをほぼほぼ入れていたワケで。準備は万端といった感じだった。
目的の駅に着くと、森ちゃんとよっしーが改札の向こうで既に待っていた。改札を出てふたりに挨拶し、話を聴く。何でも、ゆうこは電車を間違えて少し遅れるとのこと。ドジっ子。
その後、無事にゆうことも合流して四人で稽古場へ。この日の稽古場は、森ちゃんのお母様が勤めているというケアセンターのイベントスペースだった。机等を片付けて早速稽古へ。
稽古始めにちょっとしたインプロ。この日のインプロは抑揚をつけての本の朗読だった。いつも硬茹でな文章を読むことが多いこともあってか、ソフトな文章というのに慣れておらず、地味に上手くいかなかったのは秘密。
インプロも終わり、長机を使って本番の舞台の形状を作り、早速稽古へ移る。
とはいえ、最初の読み稽古からは一ヶ月近くが経っていて、いきなりの立ち稽古ということもあってか、よっしーとゆうこはどことなく不安な感じでいた。
おれはーーセリフを入れてたからな。不安なんてなかった。問題はどう動くかなのだけど、漸く芝居にも慣れ始めていたお陰で、その場その場で動きをつける自信も何となくあった。
で、いざ稽古。いやぁ、楽しくて仕方なかったよな。前回の稽古のように変な恥ずかしさが出るかとも思ったけど、案外大丈夫で。しかも、相手役がよっしーともなるとやり易いし、かつ楽しくて仕方がない。
それと、セリフを殆ど入れていたお陰もあって、すごくやり易かったな。
役者でありながら、演出も務める森ちゃんと話し合いながら芝居を作っていくのも、これで三回目でいい感じで稽古は進行していった。
結果、三時間の稽古時間もあっという間に過ぎ去っていた。
冬樹を演じることに関していえば、まだ全然。動けるし、セリフもほぼ入っているけど、直すべきところは多い。
長いようで短い、短いようで長い戦いが始まった感じだった。
【続く】