【明日、白夜になる前に~壱~】

文字数 1,464文字

 直人が死んだ。

 そう聴かされて、ぼくはどうすべきだったのだろうか。精一杯の思いで涙を流すべきだったのか。はたまた、取り乱して全身で悲しみを表現すべきだったのだろうか。

 わからない。

 どうしたらよかったのか、わからない。

 唐突に来たメッセージ。開いてみれば、直人から。が、その内容はといえば、「七月八日、永眠致しました」。

 イタズラとしか思えなかった。だが、直人はそんなイタズラをするようなヤツでもなかった。ぼくと違って常に真摯に自分の人生と向き合い、日々躍進していた直人が死んだなんて、ぼくには到底信じられなかったのだ。

 だが、そんな直人が死んだ。

 事情を確かめようとメッセージに返信すると、その意味がわかった。というのも、アカウントは直人のモノだが、メッセージを打っているのは直人の奥さんとのことだった。

 ぼくは心苦しいながらも直人の死因を訊ねた。原因はここ最近の暑さによる熱中症とのことだった。何でも水分を取らず、しかも休憩することもなく働きづめで、気づけば足元もふらつき、そしてーーということらしい。

 葬儀は身内の中だけで既に済まされたとのことだった。この世界的に蔓延しているウイルスの関係で、親族だけの葬儀にせざるを得なかったというのだ。

 ぼくとしても、ヤツの葬儀には是非出たかったが、それも世の流れを考えたら仕方ないと諦めるしかなかった。何より、ぼくは呆然とすることしかできなかった。ヘラヘラと笑うことしかできなかった。多分、直人の死を受け入れることが出来なかったのだろう。

 しかし、ヤツも無念だったことだろう。三十代、まだまだこれからというところで、暑さによって唐突に命を奪われてしまったのだから。

 対するぼくはというと、毎日うだつも上がらず、グダグダと過ごしている。

 仕事をしていないワケではない。

 ただ、その場しのぎをするようにお座なりな作業をし、多少の残業をこなした後に帰宅すると、発泡酒を胃に流し込み、コンビニで適当に買ってきた味の濃い冷凍の餃子や焼き鳥を調理、温めて食っている。そして、お供にはゲームにパソコンにサブスクの映像配信サービス。これだけでも充分楽しく生活できる。

 享楽的には生きているが、当然彼女などいない。最後に女性と付き合ったのは、もう七年も前になる。この空手で気楽な生き方が、ぼくの身体に染み着いてしまって久しい。

 だが、直人には奥さんもいれば子供もいた。そんな残された人たちはこれからどうするのだろうか。自分には関係のない話だとはわかっていながらも、どこか気になってしまう。

 そんな中である。

 ぼくはとある休日に、昔の友人と今流行りのオンライン飲みというヤツをやっていた。

 楽しくて仕方なかった。それこそ、亡くなった直人の話なんかもたくさんした。

 酒は進んだ。これまでひとりで飲むことが常で、人と話ながら飲むなんてことも、このご時世でまったくしていなかったから、破目を外してしまったのだろう。

 最初はうっすらとした頭痛があった。それがいつしか気持ち悪さに変わった。そして、いつしか目の前が赤黒く歪み、意識は消えた。

 そうか、ぼくも死ぬのかーー不意にそう思った。不思議と恐怖はなかった。悔いもなければ、生き続けたいという欲もなかったから。

 まったく逆の立場でありながら、ぼくも彼と同じ最期を迎えることとなるとは、人生なんて皮肉なモノだ。薄れ行く意識の中で、そんな思いが過った。

 闇がぼくを捉えた。

 そして、気づけばぼくは深い闇の中へと引きずり込まれていった。

 深い闇の中へーー

 【続く】

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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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