【藪医者放浪記~捌拾睦~】
文字数 604文字
騒ぎが大きくなっている中庭、邸内に対して、玄関のほうは不気味なほど静かだった。
お雉はそんなことには構わず門の横にある潜り戸を開けた。と、そこには困惑した斎藤と老人の姿があった。
斎藤は相変わらず、大層な剣の腕の持ち主には見えないようなオドオドと仕方だった。ほんと人は見掛けによらない。もう一方の老人のほうはまったく何とも形容のしようがない普通の老人だった。いや、それどころか、この老人、先程番屋にて会った老人だった。お雉は一瞬表情を強張らせたが、すぐに笑みを作って斎藤に声を掛けた。
「あら、斎藤さん、こんにちは」
斎藤は突然にお雉が出てきたことで驚いた。だが、お雉が松平天馬に仕える闇の稼業人であることを知っている斎藤にとっては、それもすぐになって納得の姿勢を見せた。
「あぁ、先程はどうも」
斎藤が笑顔で挨拶するも、老人のほうは気が気でないといった様子だった。お雉は老人に笑みを向けた。
「こんにちは」
そのことばには先程会ったことによる親しみも含まれているようだった。だが、老人はお雉を見るとワケがわからないといった顔で、
「え、どちら様かの?」
といった。これにはお雉も困惑した。さっき会ったばかりの人間をそんなすぐに忘れるモノだろうか。これがただ道で通りすがっただけの人であればそれも可笑しくはないだろうが、お雉と老人は普通に番屋の中でアレコレとやり取りしている。
お雉は驚きを隠せなかった。
【続く】
お雉はそんなことには構わず門の横にある潜り戸を開けた。と、そこには困惑した斎藤と老人の姿があった。
斎藤は相変わらず、大層な剣の腕の持ち主には見えないようなオドオドと仕方だった。ほんと人は見掛けによらない。もう一方の老人のほうはまったく何とも形容のしようがない普通の老人だった。いや、それどころか、この老人、先程番屋にて会った老人だった。お雉は一瞬表情を強張らせたが、すぐに笑みを作って斎藤に声を掛けた。
「あら、斎藤さん、こんにちは」
斎藤は突然にお雉が出てきたことで驚いた。だが、お雉が松平天馬に仕える闇の稼業人であることを知っている斎藤にとっては、それもすぐになって納得の姿勢を見せた。
「あぁ、先程はどうも」
斎藤が笑顔で挨拶するも、老人のほうは気が気でないといった様子だった。お雉は老人に笑みを向けた。
「こんにちは」
そのことばには先程会ったことによる親しみも含まれているようだった。だが、老人はお雉を見るとワケがわからないといった顔で、
「え、どちら様かの?」
といった。これにはお雉も困惑した。さっき会ったばかりの人間をそんなすぐに忘れるモノだろうか。これがただ道で通りすがっただけの人であればそれも可笑しくはないだろうが、お雉と老人は普通に番屋の中でアレコレとやり取りしている。
お雉は驚きを隠せなかった。
【続く】