【帝王霊~伍拾捌~】
文字数 1,077文字
和雅に出来ることなど何もなかった。
夜の川澄のストリート。高校時代は毎日通った馴染みの場所も、夜となればその様相を一変させ、グロテスクな姿へと変化していた。
夜の川澄中央商店街は、あからさまに男待ちのたちんぼ女に昼間では見ることのないガタイのいい怪しげな黒人がギョロっとした目で通りをゆく者たちを眺めていた。
シンゴから電話を貰ってから一時間弱が経っていた。冬だというのに和雅の身体からはその運動量から白い湯気が立っていた。息は荒く白かった。そろそろ学生が出歩く時間ではなくなっていたが、恐らくシンゴはまだ走り回っていることだろう。和雅はスマホを取り出し電話を掛けた。
コール音三回、普通からやや早いくらいの電話の出。全然手はあいている。つまり、そこまでの手掛かりはないということだろう。
はい、と電話に出たシンゴの声は今にも泣き出しそうだった。和雅はシンゴの名前を呼んでから、話し始めたーー
「その様子だと見つかってないみたいだね」
シンゴは輪郭の崩れた声ではいと答えた。ストリートのゴーッという音が電話口の向こう側で鳴り響いていた。和雅はいった。
「......後は大人に任せて、家に帰りな」
「イヤです......ッ!」シンゴはピシャリと否定した。「おれも探したいッ!」
「止めろッ! キミの同級生が被害に遭ってるってのに、同じ中学生が外をうろつけばリスクしかない! 今、ヤエさんもお父さんも動いているだろ? なら、キミたちが無理をする理由はーー」
「イヤですよッ! じっとなんかしてられません。春奈はおれのせいで被害に遭ったのかもしれないんです。だからーー」
「そんなことはないよ! 何処の世界にさっきまで一緒にいた女子が誰かに拐われることを予想出来るんだい。それがわかるんだったら、犯人はソイツしかいないよ。いいからーー」
「......わかった」
「そうか......、気をつけてな」
「.....はい」
そうして電話は切られた。和雅のことばは帰り道を気をつけて帰るように忠告するトーンではなかった。和雅の表情は何処か和らいでいた。
「山田和雅さん、だよね?」
突然名前を呼ばれて和雅は辺りを見回した。女の声。だが、声を掛けたであろう人の姿はそこにはない。ため息をつく和雅。
「そうだよね。わたし、この前アナタのお芝居を観て知ってるもん」
やはり聴こえてくる声。だが、改めて回りを確認してもそれらしき姿は何処にもない。
「見えるワケないよ。わたし、幽霊だからさ」
「幽霊......?」
「うん」女の声はいった。「わたしは大原美沙。祐太朗にいわれて来ました」
【続く】
夜の川澄のストリート。高校時代は毎日通った馴染みの場所も、夜となればその様相を一変させ、グロテスクな姿へと変化していた。
夜の川澄中央商店街は、あからさまに男待ちのたちんぼ女に昼間では見ることのないガタイのいい怪しげな黒人がギョロっとした目で通りをゆく者たちを眺めていた。
シンゴから電話を貰ってから一時間弱が経っていた。冬だというのに和雅の身体からはその運動量から白い湯気が立っていた。息は荒く白かった。そろそろ学生が出歩く時間ではなくなっていたが、恐らくシンゴはまだ走り回っていることだろう。和雅はスマホを取り出し電話を掛けた。
コール音三回、普通からやや早いくらいの電話の出。全然手はあいている。つまり、そこまでの手掛かりはないということだろう。
はい、と電話に出たシンゴの声は今にも泣き出しそうだった。和雅はシンゴの名前を呼んでから、話し始めたーー
「その様子だと見つかってないみたいだね」
シンゴは輪郭の崩れた声ではいと答えた。ストリートのゴーッという音が電話口の向こう側で鳴り響いていた。和雅はいった。
「......後は大人に任せて、家に帰りな」
「イヤです......ッ!」シンゴはピシャリと否定した。「おれも探したいッ!」
「止めろッ! キミの同級生が被害に遭ってるってのに、同じ中学生が外をうろつけばリスクしかない! 今、ヤエさんもお父さんも動いているだろ? なら、キミたちが無理をする理由はーー」
「イヤですよッ! じっとなんかしてられません。春奈はおれのせいで被害に遭ったのかもしれないんです。だからーー」
「そんなことはないよ! 何処の世界にさっきまで一緒にいた女子が誰かに拐われることを予想出来るんだい。それがわかるんだったら、犯人はソイツしかいないよ。いいからーー」
「......わかった」
「そうか......、気をつけてな」
「.....はい」
そうして電話は切られた。和雅のことばは帰り道を気をつけて帰るように忠告するトーンではなかった。和雅の表情は何処か和らいでいた。
「山田和雅さん、だよね?」
突然名前を呼ばれて和雅は辺りを見回した。女の声。だが、声を掛けたであろう人の姿はそこにはない。ため息をつく和雅。
「そうだよね。わたし、この前アナタのお芝居を観て知ってるもん」
やはり聴こえてくる声。だが、改めて回りを確認してもそれらしき姿は何処にもない。
「見えるワケないよ。わたし、幽霊だからさ」
「幽霊......?」
「うん」女の声はいった。「わたしは大原美沙。祐太朗にいわれて来ました」
【続く】