【帝王霊~死拾睦~】

文字数 1,150文字

 夕焼けの川澄街通りはぼくの気持ちとは反するように賑やかだった。

 ぼくはただ歩いている。そして、ぼくのうしろをついてくるのは、春奈だ。関口と別れた後、ぼくは春奈と出会った。春奈は何もいわなかった。ぼくは無言のまま彼女と視線を交差させた。非常に長い時間だったと思われた。だが、実際は二分もなかったかもしれない。

 ぼくと春奈はずっと見詰め合っていた。先に目線を外したのは、ぼくのほうだった。耐えられなかった。恥ずかしいというのではない。だが、何だか耐えられなかった。疚しいことなど、個人的にはなかったはず。なのに春奈と目を合わせていられなかった。

 ぼくは踵を返して歩き出した。逃げ、といわれればそうかもしれない。いや、逃げであったのはいうまでもないだろう。ぼくが出来ることは、彼女に背を向けることだけだった。何をいうワケでもない。というより、ことばを交わすことは出来なかった。ことばも思い浮かばず、何を話せばいいのかもわからなかった。

 結局ぼくは春奈に背を向けて歩き出した。ただ、ぼくは思わずうしろを向いてしまった。

 そこには春奈がいた。

 春奈はやや俯き加減になり、ぼくから三メートルほどの距離を取って歩いていた。ぼくはハッとした。と、その時、春奈がぼくのほうを見た。目が合った。ぼくはすぐさまギコチナイ動きで前を向いた。

 歩行というのは人間が日常生活の中で当たり前にする運動だ。だが、ぼくは歩き初めて数日のビギナーにでもなったように、固い動きで歩くしかなかった。

 どうにも動きづらかった。まるで身体の中に重石が詰まっているよう。肩に力が入っているのがわかる。いつもは何をやっても肩の力が入っているのことなんてわからないのに、この時ばかりは不思議と自分の身体がガチガチだったのがわかった。理由はわからない。だが、ぼくはーー

 ぼくは川のように流れる商店街の人の流れの真ん中で立ち止まる。少しだけ天を仰ぐ。まるで龍が立ち上るように、息を吐く。ぼくは振り返る。

 商店街のど真ん中で立ち止まったことで、ぼくに不快な表情を向けてくる人たちの顔が幾分か見えた。が、まるで掃き溜めにツルが舞い降りたかのように、ぼくの意識は春奈に釘付けになっていた。

 春奈はぼくが立ち止まり振り返ったことに気づくと、彼女も立ち止まる。

 再び視線が交差する。まるで周りの音がすべて消え去り、背景が真っ白くなったようだった。ぼくはアゴで彼女に彼女から見て左を向くよう促す。

 川澄中央広場。人の姿は疎らだ。高校生に中学生、カップルだったり、同性の友人同士だったりの姿が見える。ぼくは再び大きく息を吐いてから、中央広場のほうへと入っていく。中に入って少ししてから振り返る。

 春奈が俯き加減の上目遣いでぼくのほうへと近づいて来ていたーー

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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