【ナナフシギ~捌拾伍~】
文字数 607文字
いつしかおぞましい雰囲気が漂い始めた。
黒く滲んだヘドロのような世界も気づけば生物の体内のような赤黒く柔らかい質感の世界へと変わっていた。まるで声帯のような振動するビロビロとした穴がそこら中に置かれている。恐らく、扉があったところはすべてそのビロビロになっているのだろう。床を踏み締めればまるで靴で弾力性のある布団に乗ったようなたわみを感じた。そして、道の至るところにはヒダのようなモノがあり、それが歩くのを邪魔していた。
「何だよ、これ......」
祐太朗が絶句するのも無理はなかった。普通の霊道であれば、昨日見たような黒い影と化した霊たちが取り囲んでいるような空間で、鉄と錆びに満ち溢れたような世界観だったり、さっきまで具現化していたヘドロに満ち満ちた世界なのだが、生物の体内のような不気味な霊道というのは見たこともなければ想像すら出来なかったからだ。
「......あまり、よろしくはないですね」
いつになく岩淵は緊張したようにいった。祐太朗はそんな岩淵のことばに驚きつつ、「どういうことだ」と訊ねた。
「そのままの意味です。わたしたちは飲み込まれている。厳しいことをいいますが、覚悟はなさっておいて下さい」
覚悟ーーその意味、内容に関しては岩淵は語らなかった。だが、祐太朗のハッとした表情はその意味を察していることを象徴していた。
「遊んでいる暇はありません。急ぎましょう」
突如、岩淵は踵を返した。
【続く】
黒く滲んだヘドロのような世界も気づけば生物の体内のような赤黒く柔らかい質感の世界へと変わっていた。まるで声帯のような振動するビロビロとした穴がそこら中に置かれている。恐らく、扉があったところはすべてそのビロビロになっているのだろう。床を踏み締めればまるで靴で弾力性のある布団に乗ったようなたわみを感じた。そして、道の至るところにはヒダのようなモノがあり、それが歩くのを邪魔していた。
「何だよ、これ......」
祐太朗が絶句するのも無理はなかった。普通の霊道であれば、昨日見たような黒い影と化した霊たちが取り囲んでいるような空間で、鉄と錆びに満ち溢れたような世界観だったり、さっきまで具現化していたヘドロに満ち満ちた世界なのだが、生物の体内のような不気味な霊道というのは見たこともなければ想像すら出来なかったからだ。
「......あまり、よろしくはないですね」
いつになく岩淵は緊張したようにいった。祐太朗はそんな岩淵のことばに驚きつつ、「どういうことだ」と訊ねた。
「そのままの意味です。わたしたちは飲み込まれている。厳しいことをいいますが、覚悟はなさっておいて下さい」
覚悟ーーその意味、内容に関しては岩淵は語らなかった。だが、祐太朗のハッとした表情はその意味を察していることを象徴していた。
「遊んでいる暇はありません。急ぎましょう」
突如、岩淵は踵を返した。
【続く】