【藪医者放浪記~玖拾捌~】

文字数 755文字

 騒がしさの中に更なる騒がしさが投石されるように積み重なった。

 片や玄関のほうから、片や書庫のほうから。猿田源之助と牛野寅三郎のふたりは共に声のしたほうへと目を向け、更に積み重なった声のほうへと目を向けた。

「今度は何だ......」

 猿田は思い切りため息をついた。長過ぎる一日。起きて医者を探し、それからヤクザと切り合って、武田藤十郎らを連れて屋敷に戻って、寅三郎と手を合わせて、挙げ句の果てに茂作が似非モノの医者で、本物の医者が現れてしまい、とても面倒なことになっている。この面倒続きの一日は一体いつになったら終わるのか。そんな声が聞こえて来そうだった。それに対して寅三郎は困惑はしているが、可能な限りそれを表情に出さんと頑張っているようだった。

「玄関、ということは例のお医者様ですね......」寅三郎はいった。「やはり、道具を盗んだのがマズかったのではないでしょうか」

 当たり、である。ただ、騒いでいる理由はその盗まれた道具を持っていたのがお雉で、彼女がそれを盗んだと誤解されているからだが、猿田と寅三郎がそれを知るはずはない。猿田は玄関のほうを見ながら唸っていたが、ふと書庫のほうを向くと、

「......で、あっちは?」

「さぁ、......泥棒でも入ったのでしょうか?」

 泥棒ーーだとしたら、まさに盗みを働こうとしているところを見られたに違いないのだが、だとしたら逃げるために障子から出てくるか、格子を突き破る音が聞こえるだろう。だが、そんな音はしなかった。

「手分けして行きましょうか......?」

 寅三郎はあまり乗り気ではないが仕方なくといった調子でいった。猿田もそれに頷くしかなく、観念したように「そうですね......」といった。寅三郎はいったーー

「......どちらに向かいます?」

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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