【冷たい墓石で鬼は泣く~伍拾漆~】

文字数 1,063文字

 21ーーわたしが倒した達人の数だ。

 中には本物の達人もいれば、自分でそういっているだけの偽物もいたかもしれない。が、少なくとも、わたしが武田家に仕えている間に倒した達人の数はそれほどになる。

 どうしてそうなってしまったのかといえば、これは藤十郎様の戯れからだった。

 藤十郎様は新しい剣術の先生となる達人を連れて来る度に、わたしに腕試しとして相手をさせた。わたしとしては胃の痛い話ではあったが、やらざるを得なかった。

 何故なら、それがわたしの主となる人間の命であったからだ。

 来た時は自信満々、或いは何処か横柄な態度を取っていた達人たちも、わたしがひとつ手を入れる度にその顔色の雲行きは暗くなっていき、終わった時には不貞腐れるか、口に出来ない怒りを表情に表して姿を消していった。

 わたしとしては本当に申しワケない限りだった。確かにわたしとしては稽古相手としては申し分のない相手ではあったが、肝心の藤十郎様がろくに刀を握ろうとしないことは明らかに問題だった。それに、それだけ多くの達人を倒してしまうと、わたし自身の評判は上々となる代わりに、武田家の評判は少しずつ地に落ちていってしまう。

 お陰でもはや誰も武田家ご子息様の剣術指南係に名を上げる者はいなくなってしまった。

「貴殿がついておきながら何というザマだ」

 流石に藤乃助様も呆れていらした。それもそうだろう。剣術の師範を短い間にコロコロと変えていれば、それだけで周囲からの目も厳しくなり、武田家は武士という武士を狩るお遊びに夢中になっていると不名誉なウワサを立てられるようになってしまった。

 わたしは藤乃助様に謝ることしか出来なかった。だが、それが同時に藤十郎様の頼みであったことを藤乃助様も承知しているようだった。家臣である者、主君の命に欺いてはならない。それが例え身を滅ぼすであろうモノでも。それが出来なければ、わたしはーー

「うーん」藤乃助様は頭を悩ませていた。「とはいえ、それだけ達人と名乗る者がいて、貴殿にろくに木刀をかすらせることすら出来ないとは......。貴殿は本当に何者なのだ」

 藤乃助様が、わたしが牛野の人間だと知らないとかそういう話ではなかった。むしろそんな話は最初からバレバレだった。問題はそこではなく、わたしがそれだけ多くの達人を次々と倒していってしまうことだった。

 別に大した話ではなかったのだが、かつて多くの人と手合わせした経験がわたしをそのようなまでに仕立て上げていた。

「そこでなんだが......」

 困惑した様子で、藤乃助様はいった。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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