【ナナフシギ~伍拾伍~】

文字数 1,132文字

 生暖かい風が吹いていた。

 生と死の狭間である霊道であっても夏の夜の風は吹くのだといわんばかりだった。学校の外、校庭は確かに霊道の外だった。だが、どうやら一度霊道に取り込まれてしまっては、もはや敷地から出るまでは霊道から抜ける手筈はないようだった。

 校舎の中にある中庭も例外ではなかった。中庭も校庭には繋がってはいるがそれはもはや関係なく、校舎に入ったという事実がもはや問題だったらしかった。

「どうするんだよぉ......」

 清水が声を震わせながらいった。だが、岩淵はそんなこと聴いていないかのように清水のことばを無視し、振り返りつつ空を見上げていた。それに対し清水は岩淵の服を掴んで彼のことを揺さぶった。

「聴いてんのかよぉ......ッ! これじゃあおれたち帰れねぇじゃんかぁ......ッ!」

「少し黙りなさい」

 岩淵は冷酷にいい放った。だが、清水に黙っている余裕なんか欠片もなかった。更に強く岩淵のことを揺さぶると、

「だって、アンタも見ただろうーー」

 それから清水はことばを続けた。学校の敷地、そこから先へと続く道、大地が完全に断絶されていた。つまり、学校の敷地全体だけが、まるでしっかりと切り取られてしまったかのように、学校の敷地から先がなくなっていた。そして、断絶された先はまるで霧が掛かったかのようになっていた。

「これじゃあ、帰れねぇよぉッ!」

「黙れといってるだろうが!」

 いつも慇懃無礼なモノいいの岩淵が声を荒げた。清水はハッとして黙った。岩淵は清水の頭を掴んで自分の顔を近づけると不敵に笑って見せた。

「漸く黙る気になったか」

 垂れた目の岩淵ーー笑ってはいても、目は笑っていなかった。清水は身体を震わせていた。もはや、その相槌も身体の震えと大差なかったかもしれない。岩淵は続けた。

「霊道に取り込まれるとな、簡単には出られないんだよ。でも、出ることは出来る」

「ど、どうやって......?」

「......坊っちゃんは今音楽室にいるらしい」

「は......?」

 清水はワケがわからないといった様子で岩淵を見た。岩淵は清水に構わずに続けた。

「お友達の弓永様はお前の友達と女の人と一緒みたいだな」

「え?」清水は声を上げた。「女、ってことは石川先生が見つかったのか?」

「そういうことじゃないか?」

「でも......」清水は恐る恐るいった。「何で、そんなことがわかるんだよ?」

 岩淵はつまらなそうに清水の顔を見詰めたと思いきや、そのまま校舎のほうへと戻って行ってしまった。清水は岩淵の背中にいった。

「何処行くんだよ!?」

「坊っちゃんたちのところだ。話の続きは歩きながらでいいだろ?」

 清水は呆然と立ち尽くしていたが、ハッとして再び岩淵の背中を追い掛けた。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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