【冷たい墓石で鬼は泣く~伍拾玖~】

文字数 1,100文字

 わたしは基本的に怠け者なのかもしれなかった。

 何かを真剣にやりきるというよりは、適度に休みながらあらゆることを適度な調子でやっていくのが自分のしょうに合っていると思っていた。そのためには下手なことなどしない。そもそもわたしは馬乃助のように他者に対して攻撃的になどなれなかった。何故ならそれが後にどのような面倒を生むか知っていたし、そういうことに関わり合いになりたくなかったから。

 だが、仏さまはわたしにそういう運命を辿らせまいとしているようだった。多分、最初はおはるのことで父に対して反抗したこと。そして、これがわたしにとって二度目の大きな反抗になるかもしれなかった。

「今、何といった」

 藤十郎様がいった。それはもはや疑問ではなく、ただの威圧でしかなかった。本当ならそんな威圧やいざこざに巻き込まれるのは御免だったが、そうするワケにもいかない。わたしは吐きそうになりながら、自分の身体の中のモノをすべて飲み込んで答えた。

「これからはわたしが藤十郎様の剣術の先生となります」

 そういった途端に辺りはまるで水を打ったようにシンとなった。そこにいたのが、わたしと藤十郎様だけだったとはいえ、その沈黙はまるで有象無象が集う場所での孤独なまでの沈黙のようだった。そして、突然に笑い声が立ち上った。まるで龍が天へと昇るように。

「貴様がわたしの剣術の先生だと?」藤十郎様の目は明らかに笑っていなかった。「笑わせるのもいい加減にしたらどうだ?」

「笑わせるつもりなどこれっぽっちもありません。藤十郎様はこれからわたしの門弟となって頂きます」

 自分でもこんなことをいうとは思ってもいなかった。それに、こんなことをいう度胸があったのかと思いつつも、その場の緊張感から逃げ出したい気分でもあった。

「それはどういうことだ?」

 威圧的に藤十郎様はいった。正直、圧迫感は感じた。だが、そんなことをいっている場合ではなかった。わたしは尚も強硬な姿勢でいった。

「どういうことも何も、そのままの意味です」

「それは父上からの命か?」

「そうです」わたしは即答した。「アナタ様があらゆる剣の先生を愚弄、侮辱したからこそ、こういうことになったのです」

 これは本当のことだった。藤乃助様は藤十郎様の剣術への取り組みの甘さーーいや、それどころかむしろ剣術といったモノを完全に舐め切っている感じがどうしても許せないとのことだった。そして、その責任のいったんは間違いなく世話係のわたしにもある、と。更にいえば、それだけの達人を倒してしまうような腕前ならわざわざ剣術の先生を雇うまでもないだろう、ということだった。

 藤十郎様は不満そうだった。

 【続く】
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み