【一年三組の皇帝~睦拾~】
文字数 653文字
一時間目は国語、ヤエちゃんの授業だった。
ヤエちゃんは何事もないようにいつも通り教科書を広げて祇園精舎の鐘の声と読み上げている。だが、ぼくにはヤエちゃんの鐘のように響く声はそこまで響かなかった。
うしろは向かなかった。が、そこで映っている絵を想像することは出来た。空白となった席がひとつーー辻の席だ。辻の姿はない。朝のホームルーム前、ヤツは屋上前の踊り場で涙を流して以降姿を消した。多分、泣いたことを人に悟られたくなくて一時間目はサボることにしたのだろう。そのことを責め立てる気は、今のぼくにはなかった。
きっと、山路と海野は辻がいないことを気にしているだろうし、何かしら心配のメッセージを送っているに違いなかった。
友人。辻のことはしょうもないヤツだとは思っていたけれど、そんなヤツにも友人はいる。もしかしたら、それは本当の友人ではなく、ただそこに似たようなヤツがいるから何となくつるんでいるだけかもしれない。
だが、その何となくのつるみでぼくはいいとも思う。本当のトモダチってそもそも何って気もするし、逆にその『本当の』という形容詞が逆に重々しく感じられるのは多分ぼくだけじゃないだろう。
ぼくのとなりに座っている野崎がまさにそうだ。彼女はことあるごとにつるんでいる人に対して『親友』という。でも、ぼくは思うのだ。『親友』ってのはそんな軽々しくことばに出せるようなモノなのか、と。ぼくはひねくれているかもしれない。でもーー
「林崎くん」
ハッとした。ヤエちゃんが難しい顔してこっちを見ていた。
【続く】
ヤエちゃんは何事もないようにいつも通り教科書を広げて祇園精舎の鐘の声と読み上げている。だが、ぼくにはヤエちゃんの鐘のように響く声はそこまで響かなかった。
うしろは向かなかった。が、そこで映っている絵を想像することは出来た。空白となった席がひとつーー辻の席だ。辻の姿はない。朝のホームルーム前、ヤツは屋上前の踊り場で涙を流して以降姿を消した。多分、泣いたことを人に悟られたくなくて一時間目はサボることにしたのだろう。そのことを責め立てる気は、今のぼくにはなかった。
きっと、山路と海野は辻がいないことを気にしているだろうし、何かしら心配のメッセージを送っているに違いなかった。
友人。辻のことはしょうもないヤツだとは思っていたけれど、そんなヤツにも友人はいる。もしかしたら、それは本当の友人ではなく、ただそこに似たようなヤツがいるから何となくつるんでいるだけかもしれない。
だが、その何となくのつるみでぼくはいいとも思う。本当のトモダチってそもそも何って気もするし、逆にその『本当の』という形容詞が逆に重々しく感じられるのは多分ぼくだけじゃないだろう。
ぼくのとなりに座っている野崎がまさにそうだ。彼女はことあるごとにつるんでいる人に対して『親友』という。でも、ぼくは思うのだ。『親友』ってのはそんな軽々しくことばに出せるようなモノなのか、と。ぼくはひねくれているかもしれない。でもーー
「林崎くん」
ハッとした。ヤエちゃんが難しい顔してこっちを見ていた。
【続く】