【一年三組の皇帝~弐拾死~】
文字数 1,200文字
翌朝、鬱蒼とした気分で登校した。
昨夜のことがふと頭の中をよぎった。辻ーー一緒に協力して、関口を倒そう。片山さんーー何でみんな上だ下だってこだわるのかな。ふたりの話に共通していえるのは、今のこのクラスは異常だということだ。
朝の教室は静かな朝の空気に反してうるさかった。野崎は教室に入ってそうそう喧しいほどの声で、おはようといい、金魚のフンたちがそれに呼応した。かと思えばとあるSNSでバズっているショート動画の話をし出し、金切り声のような笑い声を上げていた。
男子も男子でソシャゲや動画のネタで盛り上がっていた。ネットワークで娯楽さえ与えておけば、この日本の多くの中学生はエサに群がる鯉のように口をパクつかせるのだろうか。楽しそうに会話する一団を見ていらないことを考えてしまうのは、やはりぼく自身がナーバスになっているからなのだろうか。
まだ辻たちは来ていなかった。片山さんは静かに読書を嗜んでいた。その表紙はカバーが掛けられていて何を読んでいるかはわからなかった。和田は自分の席について横向きにしたスマホにかじりついていた。おそらくはソシャゲに夢中になっているのだろう。
ふと、和田と目が合った。ぼくは無言で会釈すると、和田も普通に会釈してそのままゲームの世界へと戻っていった。
田宮はいなかった。まぁ、基本遅刻気味な田宮がこの時間に登校しているほうが珍しい、か。春奈は仲のいい女子と上品に会話を楽しんでいた。ほんと、ぼくなんかとは別の世界の人みたいだ。
そして、関口はーー
「おはよう、林崎くん」
唐突に関口がぼくの目の前に現れた。いつもは金魚のフンをくっつけているのに、この時は珍しく関口ひとりだった。ぼくはハッとした。胸元に手を持っていき気づかれないようにICレコーダーの録音ボタンを押して、会話を続けた。
「何だよ?」
「何だよって、ただ挨拶しただけだよ」
その挨拶が不気味だから訊いたのだが、関口にはその真意が伝わっているのか否かわからなかった。この男なら伝わってはいても、それを敢えて無視しているといっても不思議ではないから。ぼくはいった。
「いつもは挨拶しないのに、珍しいね」
「まぁ、しない時はあるよ。ぼくも色んな人の相手をしなきゃだからね」
「まるで、他のくっついてるヤツらが鬱陶しくて堪らないっていった感じだね」
ぼくがそういうと、関口はふと笑って見せた。かと思いきや、ぼくのほうへと顔を近づけて、
「そのレコーダーで言質を取ってぼくをハメようとしてもダメだよ。友人同士の会話に策略めいたモノのなんか必要ないだろ?」
「いつおれとキミが友達になったのか教えて欲しいね」
関口は不敵に笑っていった。
「そんなの、わかりーー」
「テメェ、何してんだよ」
ドスの効いた声がこちらに飛んできた。声の主を見るとそこにいたのは登校してきたばかりの辻だった。面倒ごとには面倒ごとが重なってばかりだ。
【続く】
昨夜のことがふと頭の中をよぎった。辻ーー一緒に協力して、関口を倒そう。片山さんーー何でみんな上だ下だってこだわるのかな。ふたりの話に共通していえるのは、今のこのクラスは異常だということだ。
朝の教室は静かな朝の空気に反してうるさかった。野崎は教室に入ってそうそう喧しいほどの声で、おはようといい、金魚のフンたちがそれに呼応した。かと思えばとあるSNSでバズっているショート動画の話をし出し、金切り声のような笑い声を上げていた。
男子も男子でソシャゲや動画のネタで盛り上がっていた。ネットワークで娯楽さえ与えておけば、この日本の多くの中学生はエサに群がる鯉のように口をパクつかせるのだろうか。楽しそうに会話する一団を見ていらないことを考えてしまうのは、やはりぼく自身がナーバスになっているからなのだろうか。
まだ辻たちは来ていなかった。片山さんは静かに読書を嗜んでいた。その表紙はカバーが掛けられていて何を読んでいるかはわからなかった。和田は自分の席について横向きにしたスマホにかじりついていた。おそらくはソシャゲに夢中になっているのだろう。
ふと、和田と目が合った。ぼくは無言で会釈すると、和田も普通に会釈してそのままゲームの世界へと戻っていった。
田宮はいなかった。まぁ、基本遅刻気味な田宮がこの時間に登校しているほうが珍しい、か。春奈は仲のいい女子と上品に会話を楽しんでいた。ほんと、ぼくなんかとは別の世界の人みたいだ。
そして、関口はーー
「おはよう、林崎くん」
唐突に関口がぼくの目の前に現れた。いつもは金魚のフンをくっつけているのに、この時は珍しく関口ひとりだった。ぼくはハッとした。胸元に手を持っていき気づかれないようにICレコーダーの録音ボタンを押して、会話を続けた。
「何だよ?」
「何だよって、ただ挨拶しただけだよ」
その挨拶が不気味だから訊いたのだが、関口にはその真意が伝わっているのか否かわからなかった。この男なら伝わってはいても、それを敢えて無視しているといっても不思議ではないから。ぼくはいった。
「いつもは挨拶しないのに、珍しいね」
「まぁ、しない時はあるよ。ぼくも色んな人の相手をしなきゃだからね」
「まるで、他のくっついてるヤツらが鬱陶しくて堪らないっていった感じだね」
ぼくがそういうと、関口はふと笑って見せた。かと思いきや、ぼくのほうへと顔を近づけて、
「そのレコーダーで言質を取ってぼくをハメようとしてもダメだよ。友人同士の会話に策略めいたモノのなんか必要ないだろ?」
「いつおれとキミが友達になったのか教えて欲しいね」
関口は不敵に笑っていった。
「そんなの、わかりーー」
「テメェ、何してんだよ」
ドスの効いた声がこちらに飛んできた。声の主を見るとそこにいたのは登校してきたばかりの辻だった。面倒ごとには面倒ごとが重なってばかりだ。
【続く】