【一年三組の皇帝~死重死~】

文字数 1,059文字

 人は死ぬ瞬間、本当の意味で今見ている光景がスローになるそうだ。

 これは体内でアドレナリンとかいうのが出て、その人を極度の興奮状態にするからだといわれているらしい。他にも痛みを瞬間的に打ち消す効果もあるようで、怪我をしているのに後になって急に痛み出すというのもそのせいなんだそうだ。

 死ぬーー比喩ではなく、ぼくの頭に一瞬そんな予感がよぎった。視界が震え、軋んでいるようだった。ぼくは取り巻きのひとりがカードの山から一枚を取り上げる様を長い間見ていたーー気がした。

 一枚取り上げ、そのままカードは本人に見えないように他のプレイヤーに向けて掲げられた。そのカードはーー

 5だった。

 5ーー見事な雑魚カードだ。最強から最下層へと落ちる様はある人から見れば愉快で、ある人から見ればホッとする光景だった。ぼくは表情を可能な限り変化させずに、こころの中で静かに安堵していた。

 野次馬たちが大きな声をあげた。ざまあみろ。そんな声が聴こえて来るようだった。余計なことを。いつだって争いを煽るのは当事者ではなく部外者だ。これではぼくがどんなに表情を作っても、細かなことに気をつけてもまったく無意味。

 そう、別に仕込みなど必要ないのだ。何故なら何も知らないオーディエンスさえいれば、勝手に勝負を煽って、その結果の通りに反応してくれるのだから。膠着状態であればそれも目立つことはない。何故なら、それがこの瞬間のスタンダード。人のこころが動く時は、何か状況が動く時だ。すべてはその時の展開がどう転ぶかで左右される。

 5、9、4、13、5......。

 これで警戒すべきはキングを持つ関口と9という半端なカードを持つ取り巻き。これは勝負に行くべきだろうか。2が一枚消えたこともあって、あと13に勝てるカードは1が四枚に2が三枚。ジョーカーは抜かれていることもあって、カードは全部で52枚。今、捨てられたカードは一枚で、手札として使われているのが六枚ある。つまり残りの山は45枚。その中から七枚の内の一枚を都合よくーー

 いや、違う。

 七枚というのは確定した話じゃない。何故なら、ぼくが今、何のカードを持っているかわからないからだ。そう、もしかしたら、ぼくは今、七枚の内の一枚を持っているかもしれないのだ。だとしたら、山に眠る関口に勝てるカードの残りは六枚。捨てたカードを知ることが出来ないとはいえ、もしそうだった場合はみすみす勝利を逃すこととなる。

 だとしたら、どうすればーー

 ぼくはニヤリと笑って見せた。そして、ゆっくりと口を開いた。

 【続く】

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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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