【ナナフシギ~睦拾弐~】
文字数 1,066文字
予定をすっぽかされることほどイラッと来ることもない。
そもそも、そういう予定で動くつもりでいたのに、それが相手側の都合で大きく変えられてしまっては、それだけで自分の時間を大きく浪費することになるし、そこまでの交通費だって負担するのは自分ということになる。
リソースの問題だけでなく、そういった問題によって生じるのは、精神的な疲弊も同様である。来るはずの者が来ないとなると、それだけで心配になったり、色々と気を使わなければならなくなる。それだけでも精神というのは疲弊するモノだ。
「あ!?」思わぬ光景に威圧するような声が漏れ出した。「アイツ、いねえじゃねえか!」
そう吐き捨てたのは弓永だった。その表情はあからさまな不快感を携えていた。そもそも普通に約束を破られるだけでもイラつくだろうが、弓永という男は少年時代からことにそういったことを嫌う男だった。
弓永はいつも時間に追われて生きていた。家の決まりで塾に行くことをマストとされ、家でも最低二時間は勉強しなければならない。また身体を鍛える目的で水泳とボクシングに通わされていたこともあって自分の時間など殆どないに等しかった。
まぁ、そんなガチガチな生活をしていたこともあり、弓永は自ら落ちぶれる生活へと足を踏み入れ、高校も圧倒的な実力がありながらも、殆ど唯一の友人といっていい祐太朗と同じところを選んだのだった。とはいえ、祐太朗の通っていた高校も決してレベルは低くなく、むしろ都内では上位に属する学校ではあったが。
そんなこともあって、弓永は人に約束を破られることが大嫌いだった。それだけで自分の予定がすべて狂わされてしまうのなら、それも納得ではあるが、弓永の場合は少し行き過ぎなところもあったが。
「いきなりどうしたんだよ」
森永が膝に手をついて荒く呼吸しながらいった。石川先生もかなり疲れているようだった。それもそうだろう。夜の22時前くらいから行方が知れず、そこからどういうワケかプールサイドに打ち上げられていたのだから、体力の消耗も著しいだろう。
「祐太朗のクソ、ここで待ってるとかほざいておきながらいねぇじゃねえか」
「は?」森永は呆然とした。「お前、何いってんだよ。鈴木が何かいったん?」
「アイツ、いってたろ。ここで待つって」
「いや、いってねぇけど」
「お前、あの声が聴こえなかったのか」
「声も何も、お前の声しか聴こえなかったぞ」
「あ?」弓永は来た道を振り返った。「いや、そんなはずはねぇんだがな」
「だから、どうしたんだよ?」
弓永は森永と石川先生のほうを振り向いた。
【続く】
そもそも、そういう予定で動くつもりでいたのに、それが相手側の都合で大きく変えられてしまっては、それだけで自分の時間を大きく浪費することになるし、そこまでの交通費だって負担するのは自分ということになる。
リソースの問題だけでなく、そういった問題によって生じるのは、精神的な疲弊も同様である。来るはずの者が来ないとなると、それだけで心配になったり、色々と気を使わなければならなくなる。それだけでも精神というのは疲弊するモノだ。
「あ!?」思わぬ光景に威圧するような声が漏れ出した。「アイツ、いねえじゃねえか!」
そう吐き捨てたのは弓永だった。その表情はあからさまな不快感を携えていた。そもそも普通に約束を破られるだけでもイラつくだろうが、弓永という男は少年時代からことにそういったことを嫌う男だった。
弓永はいつも時間に追われて生きていた。家の決まりで塾に行くことをマストとされ、家でも最低二時間は勉強しなければならない。また身体を鍛える目的で水泳とボクシングに通わされていたこともあって自分の時間など殆どないに等しかった。
まぁ、そんなガチガチな生活をしていたこともあり、弓永は自ら落ちぶれる生活へと足を踏み入れ、高校も圧倒的な実力がありながらも、殆ど唯一の友人といっていい祐太朗と同じところを選んだのだった。とはいえ、祐太朗の通っていた高校も決してレベルは低くなく、むしろ都内では上位に属する学校ではあったが。
そんなこともあって、弓永は人に約束を破られることが大嫌いだった。それだけで自分の予定がすべて狂わされてしまうのなら、それも納得ではあるが、弓永の場合は少し行き過ぎなところもあったが。
「いきなりどうしたんだよ」
森永が膝に手をついて荒く呼吸しながらいった。石川先生もかなり疲れているようだった。それもそうだろう。夜の22時前くらいから行方が知れず、そこからどういうワケかプールサイドに打ち上げられていたのだから、体力の消耗も著しいだろう。
「祐太朗のクソ、ここで待ってるとかほざいておきながらいねぇじゃねえか」
「は?」森永は呆然とした。「お前、何いってんだよ。鈴木が何かいったん?」
「アイツ、いってたろ。ここで待つって」
「いや、いってねぇけど」
「お前、あの声が聴こえなかったのか」
「声も何も、お前の声しか聴こえなかったぞ」
「あ?」弓永は来た道を振り返った。「いや、そんなはずはねぇんだがな」
「だから、どうしたんだよ?」
弓永は森永と石川先生のほうを振り向いた。
【続く】