【ナナフシギ~睦拾玖~】
文字数 1,083文字
疲れればどんなに短い距離でも遠く感じられてしまうモノだ。
例えば持久走なんかがそうだろう。距離が短くても200から400メートル程度でも、持久力のない者、或いは疲れ切っている者からしたらその距離は体感的に2キロにも4キロにも感じられることだろう。
そして、それは歩いている場合でも同様だ。肉体の疲弊は身体の動きを悪くさせるだけでなく、距離感を狂わせる。歩くのと走るのでは肉体に掛かる負担も体力の消費の仕方も大きく変わって来るとはいえ、そこに掛かってくる精神的な負担というモノに大差はない。ただ、距離の縮まり方が早いか遅いかの違い程度しかないといっていい。
「疲れたな......」
森永の顔にはもはや生気がなかった。目はうつろで、肩と背中はダランと落ちているようだった。脚も重そうで、まるで枷を付けられたように引き摺っていた。
「んなこといってる場合かよ」
そういう弓永もかなり苦しそうだった。強がってはいるが、表情は強張って疲れが出ていた。小学生にしては体力のあるほうだった弓永も、流石に寝ずに夜中じゅう霊のうろつく学校を駆けずり回っていれば、へたばるのも当たり前といったところだった。
石川先生も何処か疲弊した様子だった。それも仕方ないだろう。業務中に突然何かが起こったかと思えば、突然にプールの縁に浮かんでいて、その間にあったことは何も覚えていないというのだから、そうとうなことがあったと見て可笑しくはないだろう。
そうでなくとも三人とも霊力もない普通の人間だ。そんな三人が長い時間、霊のいる空間でそういった禍々しい力に晒されていれば、いつも以上の疲労感がのしかかってくるのはいうまでもなかった。
「でもさ、何か、身体、重くね......」
そうぼやく森永の感覚は正常だった。霊たちが放つ負のエネルギーは間違いなく三人の力を奪っていた。
「......確かに」石川先生はいった。「今、どれくらい進んだんだろう」
途方もなく続く廊下の先は暗闇に包まれていた。実際、100メートルも進んではいなかったが、その疲労感はもはや1キロは進んだと錯覚させるほどのモノだった。
「ごめん、弓永」森永は突然いった。「おれ、もう、ダメだわ......」
と、突然に森永は倒れた。弓永と石川先生は倒れた森永に駆け寄り介抱した。
「こんなとこで倒れんなよ」そういう弓永もかなり苦しそうだ。「あと、少し、なんだから......」
そういう弓永も森永に覆い被さるようにして倒れ込んでしまった。石川先生はーー
倒れたふたりを死んだような目で見詰めていた。まるで、感情をなくしたようだった。
【続く】
例えば持久走なんかがそうだろう。距離が短くても200から400メートル程度でも、持久力のない者、或いは疲れ切っている者からしたらその距離は体感的に2キロにも4キロにも感じられることだろう。
そして、それは歩いている場合でも同様だ。肉体の疲弊は身体の動きを悪くさせるだけでなく、距離感を狂わせる。歩くのと走るのでは肉体に掛かる負担も体力の消費の仕方も大きく変わって来るとはいえ、そこに掛かってくる精神的な負担というモノに大差はない。ただ、距離の縮まり方が早いか遅いかの違い程度しかないといっていい。
「疲れたな......」
森永の顔にはもはや生気がなかった。目はうつろで、肩と背中はダランと落ちているようだった。脚も重そうで、まるで枷を付けられたように引き摺っていた。
「んなこといってる場合かよ」
そういう弓永もかなり苦しそうだった。強がってはいるが、表情は強張って疲れが出ていた。小学生にしては体力のあるほうだった弓永も、流石に寝ずに夜中じゅう霊のうろつく学校を駆けずり回っていれば、へたばるのも当たり前といったところだった。
石川先生も何処か疲弊した様子だった。それも仕方ないだろう。業務中に突然何かが起こったかと思えば、突然にプールの縁に浮かんでいて、その間にあったことは何も覚えていないというのだから、そうとうなことがあったと見て可笑しくはないだろう。
そうでなくとも三人とも霊力もない普通の人間だ。そんな三人が長い時間、霊のいる空間でそういった禍々しい力に晒されていれば、いつも以上の疲労感がのしかかってくるのはいうまでもなかった。
「でもさ、何か、身体、重くね......」
そうぼやく森永の感覚は正常だった。霊たちが放つ負のエネルギーは間違いなく三人の力を奪っていた。
「......確かに」石川先生はいった。「今、どれくらい進んだんだろう」
途方もなく続く廊下の先は暗闇に包まれていた。実際、100メートルも進んではいなかったが、その疲労感はもはや1キロは進んだと錯覚させるほどのモノだった。
「ごめん、弓永」森永は突然いった。「おれ、もう、ダメだわ......」
と、突然に森永は倒れた。弓永と石川先生は倒れた森永に駆け寄り介抱した。
「こんなとこで倒れんなよ」そういう弓永もかなり苦しそうだ。「あと、少し、なんだから......」
そういう弓永も森永に覆い被さるようにして倒れ込んでしまった。石川先生はーー
倒れたふたりを死んだような目で見詰めていた。まるで、感情をなくしたようだった。
【続く】