【ナナフシギ~睦拾壱~】
文字数 1,155文字
霊道ーーそこはこの世とあの世を繋ぐ道。
あちらとこちら、その狭間であるが故にこちらの常識など通用はしなくなっている。霊障は当たり前に起きるし、死者の姿も当たり前のように見えてしまう。
そして、それは時間も同様だった。
学校中、あらゆる場所にかかっている時計はどれも正確な時間を指し示してはいなかった。ある場所では昼の一時を、ある場所では深夜零時を指しており、まったく信用に足らない。
そして、それは個人の持ち物も同様だった。
この時代はまだ携帯電話もPHSで、所謂ガラケーのようなモノの存在すら怪しかった。つまり、時間を確認する手段として使えるのは、個人の所有している腕時計や懐中時計、そしてPHSがいいところだった。とはいえ、この時期のPHSも娯楽となるようなアプリなど大してなく、良くて人とメールが出来る程度。今のように日常的に取り出してどう、とかいう代物でもなかった。
「あ!?」祐太朗は驚き、開かずの玄関口に向かって行った。「ウソだろ!?」
「おや、知らなかったのですか?」岩淵が口を開いた。「霊道の中で当たり前の常識を信じたって何もいいことはないですよ」
祐太朗ーー確かにこの時点で霊力はあったが、それでも経験は薄い。霊道の中がどうとか、そういった知識には疎かったようだった。しかし、そんなこともいってはいられない。今は夏、空の白み方から見て、四時前後といったところだろうか。
「おや、わたしの腕時計ではまだ夜の九時半ですね。それとも、もう朝の九時半ですかね」
岩淵は腕時計を見、まるで祐太朗のことを煽るように見ていった。祐太朗はドアを思い切り蹴った、蹴ったーー蹴り飛ばした。だが、ドアはびくともしない。
「何をそんなに慌ててるんですか?」またもや岩淵が煽るようにいった。「別に外に出られないと決まったワケではないじゃないですか?」
「どういうこと?」
エミリが訊ねると岩淵は笑った。
「別に、そんなところをバカ正直に通らずとも、中庭から校庭に出られるじゃないですか。少しは頭を冷やしなさいな」
「中庭......!」
そう、そもそも岩淵と清水は中庭から校庭へ出て外を確認済みだ。そして岩淵は続けたーー
「とはいえ、この学校全体がもはや霊道となってしまっていて、敷地の外には出られなくなっていますがね。もし、お嬢様と小さい坊っちゃんのことが気になるなら、中庭から出るしかないですよ」
祐太朗の息はもはやあがっていた。が、そんなことは関係なしに中庭のほうへと走り出した。エミリもそれについていく。
「おじさん」清水がいった。「鈴木とどういう関係なの?」
「うるさいぞ、ガキ」岩淵は一蹴した。「いいからついてこい」
岩淵は祐太朗たちが走っていったほうへと歩きだした。そして、清水も。
「待ってよ!」
朝は近かった。
【続く】
あちらとこちら、その狭間であるが故にこちらの常識など通用はしなくなっている。霊障は当たり前に起きるし、死者の姿も当たり前のように見えてしまう。
そして、それは時間も同様だった。
学校中、あらゆる場所にかかっている時計はどれも正確な時間を指し示してはいなかった。ある場所では昼の一時を、ある場所では深夜零時を指しており、まったく信用に足らない。
そして、それは個人の持ち物も同様だった。
この時代はまだ携帯電話もPHSで、所謂ガラケーのようなモノの存在すら怪しかった。つまり、時間を確認する手段として使えるのは、個人の所有している腕時計や懐中時計、そしてPHSがいいところだった。とはいえ、この時期のPHSも娯楽となるようなアプリなど大してなく、良くて人とメールが出来る程度。今のように日常的に取り出してどう、とかいう代物でもなかった。
「あ!?」祐太朗は驚き、開かずの玄関口に向かって行った。「ウソだろ!?」
「おや、知らなかったのですか?」岩淵が口を開いた。「霊道の中で当たり前の常識を信じたって何もいいことはないですよ」
祐太朗ーー確かにこの時点で霊力はあったが、それでも経験は薄い。霊道の中がどうとか、そういった知識には疎かったようだった。しかし、そんなこともいってはいられない。今は夏、空の白み方から見て、四時前後といったところだろうか。
「おや、わたしの腕時計ではまだ夜の九時半ですね。それとも、もう朝の九時半ですかね」
岩淵は腕時計を見、まるで祐太朗のことを煽るように見ていった。祐太朗はドアを思い切り蹴った、蹴ったーー蹴り飛ばした。だが、ドアはびくともしない。
「何をそんなに慌ててるんですか?」またもや岩淵が煽るようにいった。「別に外に出られないと決まったワケではないじゃないですか?」
「どういうこと?」
エミリが訊ねると岩淵は笑った。
「別に、そんなところをバカ正直に通らずとも、中庭から校庭に出られるじゃないですか。少しは頭を冷やしなさいな」
「中庭......!」
そう、そもそも岩淵と清水は中庭から校庭へ出て外を確認済みだ。そして岩淵は続けたーー
「とはいえ、この学校全体がもはや霊道となってしまっていて、敷地の外には出られなくなっていますがね。もし、お嬢様と小さい坊っちゃんのことが気になるなら、中庭から出るしかないですよ」
祐太朗の息はもはやあがっていた。が、そんなことは関係なしに中庭のほうへと走り出した。エミリもそれについていく。
「おじさん」清水がいった。「鈴木とどういう関係なの?」
「うるさいぞ、ガキ」岩淵は一蹴した。「いいからついてこい」
岩淵は祐太朗たちが走っていったほうへと歩きだした。そして、清水も。
「待ってよ!」
朝は近かった。
【続く】