【ジェノサイッ!カッタァッ!】
文字数 2,118文字
圧倒的な力の前では人は無力になる。
それはすべてをねじ曲げてしまう最凶の暴力のことだ。例えるならそれは富や権力であり、それらの前では奴隷はひれ伏し、犬として服従する他はない。
全世界の歴史の中で、こういった圧倒的な力が行使されたことは何度となくある。というより、人類の歴史はある意味、そういう圧倒的な力に服従することによって作られてきた。
確かに中には支配者を討つ奴隷も存在したとはいえ、そんな「ザ・ワン」のようなカリスマ的存在は非常に稀だ。
そもそも、そういった奴隷には上位討ちをするだけの知力もなければ体力もなく、他の奴隷たちからの人望を得ることだって困難だ。だが、中にはそういう存在もいる。そういう人のことを、人はヒーローと呼ぶのかもしれない。
かくいうおれは、何か納得する材料を提示されないと、人に従わないことが殆どだ。とはいえ、おれも所詮は単なる奴隷Aに過ぎない。知力もなければ体力もない。人望なんかこの生涯で一度もあったことがない。
そう、おれも圧倒的な暴力の前では無力な奴隷でしかないのだ。
さて、今日はそんな「圧倒的な力」について。昨日一昨日と比べたら短くなるかな。
あれは高校三年のこの時期のことだ。
先にいってしまうと、やはり受験期の話だ。ちなみに、昨日、一昨日の大学とはまた違う大学を受験した時の話だ。
この時点でおれは五つの私立大を受験し、その内の三つをクリアしていた。そして、次が私立大最後の受験ーー日程も翌日に迫っていた。
最後に受験するのは国内でも有名な私立大だった。本来ならシビアな科目選択を要求され、それらを満遍なく勉強していかなければならない大学だったのだけど、ちょうどおれらの受験の年から、とある学部、学科が追加された。
その学部は文系部門と理系部門に分かれており、おれが受験する理系部門も科学の科目が物理と化学のどちらからひとつ選択できるという、どちらか片方が苦手な人間にとっては非常に好条件な科目設定がなされていた。
おれはいうまでもなく物理を選択した。この一年、物理は飽きるほどにやった。化学を犠牲にして。だからこそ、このチャンスを逃すワケにはいかない。おれは静かに闘志を燃やした。
そして受験当日、会場に着くと、ちらほらと見た顔がいた。そう、おれのクラスからも半分ほどの生徒が受験することになっていたのだ。
馴染みの顔に挨拶し、取るに足らない会話をして緊張を紛らわす。そして、それぞれ自分の教室へと分かれていく。
教室内は空気がピアノ線のようにピンと張っていた。これも散々経験し慣れたモノだ。流石に六つ目の受験ともなると余裕がある。
席について最後の復習をしていると試験官がやって来、少しして試験は開始された。
一時間目は物理だった。何てことなかった。解き方のパターンさえ知っていれば、誰だって解ける程度の難易度だった。
二時間目は英語。物理や数学と違ってパターン化がどうというよりは、如何に言語に馴染んでいるかが重要となる科目ではあるが、これも何てことなかった。確かに難しかったかもしれないが、レベルとしてはこれまでに受けた大学と然程差はないように思えた。
これはいけるかもしれんな。二時間目の英語を終えて、おれはそう感じていた。勝てる。最後の数学さえヘマをしなければ。勝負は最後の最後、数学にて決するだろう。
そして、三時間目。比較的穏やかな心持ちで試験の開始を待っていた。いつも通りの冊子となった問題用紙に、まぁまぁな材質の解答用紙、ザラザラなわら半紙を配られる。
さて、始まりまであと少し。国立大の受験を除けば、これがおれの最後の私立大受験である。有終の美は今、ここにある。
始め。そのアナウンスとともに、おれは問題用紙を捲り、解答用紙を表にし、問題を解き始めーー
……ん?
お、可笑しいぞ?
解ける問題が見当たらないのだ。
いや、待て待て。焦りすぎだ。焦りすぎだぜ、五条竜也。ここまで一年やってきて、一問もわからないなんて、そんなバカな話がーー
あったんだな、これが。
マジで一問も解けなかった。解けそうな雰囲気は確かにあるのに、クリティカルな部分で必ず引っ掛かる。何故だ。何故なんだ。
おれは何とかして解答欄を埋めていこうとした。が、開始十分ほどして、おれはとんでもないことに気づいてしまったのだ。それはーー
周りの受験生が全員机に伏して寝ていたんだ。
まるで大量殺戮。圧倒的な力の前にひれ伏す奴隷ども。時間はまだ110分も残っているというのに机に突っ伏している受験生たちは、まるで暴力の前に屈服して死んでいった名もなき墓標のようだった。知らんけど。
それで、漸くわかった。あ、この問題、洒落にならないくらい難しいわ。
それでもおれは問題を解き続けた。解こうとすれば、どこかで必ず糸口が見つかるはずだ。が、結果はーー
大惨敗だよな。
もうね、0点だと思った。結果はわからないけど、多分0点に違いないと確信した。
結局、この数字の暴力の前ではおれもクラスメイトも皆、屈服するしかなかったのだった。
結果?ーー不合格だよッ!
人間、敵わないモノもあるってことよ。
アスタラビスタ。
それはすべてをねじ曲げてしまう最凶の暴力のことだ。例えるならそれは富や権力であり、それらの前では奴隷はひれ伏し、犬として服従する他はない。
全世界の歴史の中で、こういった圧倒的な力が行使されたことは何度となくある。というより、人類の歴史はある意味、そういう圧倒的な力に服従することによって作られてきた。
確かに中には支配者を討つ奴隷も存在したとはいえ、そんな「ザ・ワン」のようなカリスマ的存在は非常に稀だ。
そもそも、そういった奴隷には上位討ちをするだけの知力もなければ体力もなく、他の奴隷たちからの人望を得ることだって困難だ。だが、中にはそういう存在もいる。そういう人のことを、人はヒーローと呼ぶのかもしれない。
かくいうおれは、何か納得する材料を提示されないと、人に従わないことが殆どだ。とはいえ、おれも所詮は単なる奴隷Aに過ぎない。知力もなければ体力もない。人望なんかこの生涯で一度もあったことがない。
そう、おれも圧倒的な暴力の前では無力な奴隷でしかないのだ。
さて、今日はそんな「圧倒的な力」について。昨日一昨日と比べたら短くなるかな。
あれは高校三年のこの時期のことだ。
先にいってしまうと、やはり受験期の話だ。ちなみに、昨日、一昨日の大学とはまた違う大学を受験した時の話だ。
この時点でおれは五つの私立大を受験し、その内の三つをクリアしていた。そして、次が私立大最後の受験ーー日程も翌日に迫っていた。
最後に受験するのは国内でも有名な私立大だった。本来ならシビアな科目選択を要求され、それらを満遍なく勉強していかなければならない大学だったのだけど、ちょうどおれらの受験の年から、とある学部、学科が追加された。
その学部は文系部門と理系部門に分かれており、おれが受験する理系部門も科学の科目が物理と化学のどちらからひとつ選択できるという、どちらか片方が苦手な人間にとっては非常に好条件な科目設定がなされていた。
おれはいうまでもなく物理を選択した。この一年、物理は飽きるほどにやった。化学を犠牲にして。だからこそ、このチャンスを逃すワケにはいかない。おれは静かに闘志を燃やした。
そして受験当日、会場に着くと、ちらほらと見た顔がいた。そう、おれのクラスからも半分ほどの生徒が受験することになっていたのだ。
馴染みの顔に挨拶し、取るに足らない会話をして緊張を紛らわす。そして、それぞれ自分の教室へと分かれていく。
教室内は空気がピアノ線のようにピンと張っていた。これも散々経験し慣れたモノだ。流石に六つ目の受験ともなると余裕がある。
席について最後の復習をしていると試験官がやって来、少しして試験は開始された。
一時間目は物理だった。何てことなかった。解き方のパターンさえ知っていれば、誰だって解ける程度の難易度だった。
二時間目は英語。物理や数学と違ってパターン化がどうというよりは、如何に言語に馴染んでいるかが重要となる科目ではあるが、これも何てことなかった。確かに難しかったかもしれないが、レベルとしてはこれまでに受けた大学と然程差はないように思えた。
これはいけるかもしれんな。二時間目の英語を終えて、おれはそう感じていた。勝てる。最後の数学さえヘマをしなければ。勝負は最後の最後、数学にて決するだろう。
そして、三時間目。比較的穏やかな心持ちで試験の開始を待っていた。いつも通りの冊子となった問題用紙に、まぁまぁな材質の解答用紙、ザラザラなわら半紙を配られる。
さて、始まりまであと少し。国立大の受験を除けば、これがおれの最後の私立大受験である。有終の美は今、ここにある。
始め。そのアナウンスとともに、おれは問題用紙を捲り、解答用紙を表にし、問題を解き始めーー
……ん?
お、可笑しいぞ?
解ける問題が見当たらないのだ。
いや、待て待て。焦りすぎだ。焦りすぎだぜ、五条竜也。ここまで一年やってきて、一問もわからないなんて、そんなバカな話がーー
あったんだな、これが。
マジで一問も解けなかった。解けそうな雰囲気は確かにあるのに、クリティカルな部分で必ず引っ掛かる。何故だ。何故なんだ。
おれは何とかして解答欄を埋めていこうとした。が、開始十分ほどして、おれはとんでもないことに気づいてしまったのだ。それはーー
周りの受験生が全員机に伏して寝ていたんだ。
まるで大量殺戮。圧倒的な力の前にひれ伏す奴隷ども。時間はまだ110分も残っているというのに机に突っ伏している受験生たちは、まるで暴力の前に屈服して死んでいった名もなき墓標のようだった。知らんけど。
それで、漸くわかった。あ、この問題、洒落にならないくらい難しいわ。
それでもおれは問題を解き続けた。解こうとすれば、どこかで必ず糸口が見つかるはずだ。が、結果はーー
大惨敗だよな。
もうね、0点だと思った。結果はわからないけど、多分0点に違いないと確信した。
結局、この数字の暴力の前ではおれもクラスメイトも皆、屈服するしかなかったのだった。
結果?ーー不合格だよッ!
人間、敵わないモノもあるってことよ。
アスタラビスタ。