【一年三組の皇帝~死拾壱~】

文字数 1,076文字

 脳髄が沸騰しそうになった。

 無意識に身体が前へ出そうになったが、グッと堪えた。これがヤツラの策略でないとはいい切れなかったからだ。

 マンガや映画では、怒りを全面に押し出すと、とてつもない力を発揮する描写があるが、現実にはそんなことは殆どない。確かに怒りでその意識を一点集中することで、強さが増すということもあるかもしれない。

 だが、現実には注意力は散漫となり、身体には無駄な力が入って柔軟性はなくなるため、逆に力は落ちるし、判断力も大幅に下がることもあって、いいことなどまったくといっていいほどない。

 この田宮への乱暴な扱いも、いってしまえば、ぼくに対する挑発だったのでは、とも思えてならない。ヤツラはぼくの痛いところをよく知っているはずだ。そうでなくても入学時から一緒にいて仲良くやっていたのだから、余計にそうだろう。そして、それをあの関口が見逃すはずがない。

 ぼくは周りに意識を向けられないように、小さく静かに息を吐いた。荒ぶりたがる呼吸を無理矢理静めたお陰か、少しは気持ちが落ち着いたような気がした。

 しかし、関口は真っ直ぐにぼくのほうを見ていた。心臓が大きく鼓動を打った。コイツ、今、ぼくが落ち着きを取り戻そうと息をついたのをしっかり見ていた。まるで、ぼくがそうするだろうとわかっていたかのように。

 関口は不敵な笑みを浮かべ、いった。

「乱暴はやめなよ。空気が悪くなるからさ。それより、早く林崎くんと勝負したい」

 そういわれると、取り巻きは雑に田宮を突き飛ばし、席に着いた。ぼくは自分の中の情というのを必死に殺した。田宮が突き飛ばされようと、無関心を装った。

「で、どうする?」関口はぼくに訊ねた。「席は何処にする?」

 席ーーそう、席だ。それがひとつの肝になっている。これまで負けていった人たちはみな、窓際の席に座っていた。窓とはいえ、壁を背にすれば、まず間違いなく壁役のような相手がうしろにつくことはない。

 だが、これは『ネイティブ』だ。自分のカードを見れないのは自分だけ。それに窓際に座れば、自分のカードがプレイヤーだけでなく、他の野次馬たちにも筒抜けになってしまう。もし、野次馬の中にヤツラとグルになっているヤツがいれば、それはマズイことになる。だとしたらーー

「ここで」

 ぼくは自分から席についた。屁理屈をいわれて断られる前に先に自分の席は確保してしまったほうが早いとわかっていた。と、関口の取り巻きが焦ったようにぼくにダメだといってきた。やはり、そうか。だがーー

「いいじゃん。じゃ、やろうか」

 関口は氷雪のように落ち着いていた。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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