【おれたちに終わりはない】

文字数 2,985文字

 生きていれば、友人とケンカすることもあるだろう。

 確かにちょっとした不和や何かで相手に対して酷いことをいってしまったり、悪い態度を取ってしまったりすることもあるだろう。

 とはいえ、怒りなんて所詮は熱せられた鉄と同じ。高温で熱せられている時は鉄も柔らかく変形しやすくなるが、冷めてしまえば鉄は再び硬くなり、その時の状態を維持する。

 確かに一度変形した友情は元には戻らないかもしれない。ただ、そんな簡単に変形してしまうモノは友情ではないのかもしれない。そんなモノは所詮、利害の一致した共犯者の関係でしかなく、簡単にダメになるだろう。

 おれは居合をやっていることもあって、刀鍛冶の特集や何かをよく観たりするのだけど、刀の刀身である鋼は、高温で熱した後に槌で叩かれて形作られる。同時に叩くことで刀身は鍛えられ、より強く硬くなっていく。

 友情というのも、この刀鍛冶の刀身と同じだと思うのだ。

 というのも、熱した時は変形させやすいが、同時に洗練され、その硬さを確かなモノにできる。だからこそ、必ずしも友人同士のケンカというのも悪いモノではないと思うのだ。

 とはいえ、おれみたいにブチ切れる度に爆弾を投下するようにマズイことをいいまくってしまうようじゃダメなんだけどな。

 さて、今回はそんなケンカに纏わる話だ。とはいえ、これまで話した中にも友人同士のケンカっぽいエピソードはたくさんあったと思うけど、それはそれ、これはこれ、だーー

 あれは小学校三年生の中頃のことだった。

 その当時はというと、クラス替えで一、二年で同じクラスだったヤツらと散り散りになってある程度の時間も経ち、漸く新しいクラスに慣れ始めた頃だった。

 その時のおれはというと相変わらずのバカで、まだ映画にも小説にも音楽にも興味がなく、運動も大嫌いで、好きなモノはゲームのみという平成のゆとり教育の悪いところを集約したようなどうしようもないガキだった。

 運動が嫌いだった理由に関していえば、正直よくわからない。当時は水泳を習っていたとはいえ、運動全般が苦手で、体育の時間がとてつもなく苦痛だったことが原因だろう。

 しかし、苦痛だからといって体育をサボることは許されない。仕方なしに、先生にやる気がないと見なされない程度に動きつつ、何となく授業に参加している風を装うーーとはいえ、今考えると絶対やる気なかったのバレてたよな。

 さて、そんな運動嫌いの小学生にとって獄門レベルで苦痛なイベントといえば、

 運動会だろう。

 これはいうまでもないかもしれない。ただ、小学生の時期の運動会となると一度では終わらない。そう、地区の運動会という階層が上の人間と脳ミソまで筋肉で出来ている運動バカしか得しない謎のイベントもあるワケだ。

 とまぁ、今回は地区の運動会は関係ないんでその話はここまで。ま、地区の運動会なんて、所詮は誰かの自己満ーーいや、何でもないわ。

 それはさておき、運動会となると出場種目を決めて何かしらの競技に出なければならない。おれも出ることとなったのだけど、確か出たのは、全員出場の競技以外は、体育弱者御用達のイベント競技だった。

 まぁ、イベント競技への参戦が決まってホッとしたのだけど、問題は全員参加のほうだ。そちらは非情にも体育弱者には優しくなく、大抵は酷い目に遭うのがほぼ確定している。ほんと、全員参加なんて優しさはいらない。

 何か、もはや学生時代の体育に関する呪詛のことばだったら延々と垂れ流せるんだけど、今回の話ーー

 ぶっちゃけ競技がどうとかは関係ない。

 何だよそれって感じだけど、問題は待機中の時間に起こった。

 まぁ、運動会の待機時間なんてモノは、退屈もいいところで、正直、どの団が勝とうとどうでもいいし、ゲーム好きの小学生からしたら、運動会に勝つよりもゲーム内の悪に打ち勝つほうがずっと重要だったりする。

 そんな感じでおれは、自分のクラスの待機場所にて思い切り欠伸をしながら徒競走で熱を入れて走る他の生徒たちを眺めていたのだ。

 つまらん。こんな徒競走なんかよりレースゲームのほうがずっと面白い。そんな不届きなことを考えていると唐突に、

 肩に変な感触が走った。

 一体何だと思い、変な感触が走った肩のほうを向いたのだ。そしたらーー

 となりの席のヤツがおれの肩を指で押してふざけているではないの。

 おれはすぐさま「止めろ」といった。が、ソイツは止めようとはしなかった。

 つまらない徒競走に、となりのヤツのつまらないちょっかい、おれは完全に苛立っていた。ていっ、ていっ。ちょっかいを出す時の掛け声までが、おれの神経を逆撫でする。そして、

 とうとう、限界を迎えた。

 五条は激怒した。必ず、かの鬱陶しいとなりの生徒を取り除かねばならぬと決意した。

 とまぁ、走る競技だけに走れメロスの冒頭文を引用するという浅薄さを見せてしまうくらいに、この時の五条氏は苛立っていた。

 おれは動いた。となりのヤツの腕を取り、おれへのちょっかいを妨害すると、

 ソイツの腕を雑巾絞りにしたのだ。

 するとソイツは、痛いと声を上げ泣き出してしまった。そうなると面倒で担任が何事かとやってくる。それに対し、おれは、

「コイツが人にちょっかい出してきたんで」

 と正直に答えたのだ。そしたら、

 担任は納得してどっかに行ってしまったのだ。

 それはダメだろって感じではあるのだけど、やる気のない先生だったし、それも妥当よね。

 まぁ、そんなこんなでソイツは泣きに泣いて運動会を終えたのだけど、何か可笑しいと思わないだろうか。というのは、

 どうしてソイツの名前をいわないか、だ。

 いつもならトラブルを起こしたヤツの名前はすぐに出すのだが、今回は「ソイツ」呼ばわりだ。まぁ、この「ソイツ」というのは、

 健太郎くんのことなんだけどな。

 意外も意外。そもそも真面目でありながらサイコな一面を持ち合わせる健太郎くんが、おれにちょっかいを出して、反撃されて泣き出すなんて、この駄文集をコンスタントに読んでいる変態なら、多分思いつかないと思う。

 ちなみに、この時点では、おれと健太郎くんは、話はするけどそこまで仲良くはないという感じだった。が、どういうワケか、これが切っ掛けとなって、おれは健太郎くんとよく話すようになり、一緒に帰る仲になったのだ。

 人間、どこで仲良くなるかわからないもんだ。結局、健太郎くんとはその後もずっと付き合いがあり、卒業後もコンスタントに会うような関係となっている。

 そんな彼もこのウイルス騒動でリモートワークが主となり、再び五村に戻って来た。ウイルスで中々会う機会はないとはいえ、昔馴染みの友人が近くに住んでいるというのは嬉しいモンだ。会おうと思えばいつでも会えるしな。

 今となっては彼の腕を雑巾絞りにすることもなければ、変にちょっかいを出すこともない。ただ、この緊急事態宣言下でもリモートで共に杯を交わしては、真面目な話から下らない話までできるというのは非常に嬉しい限りーーまぁ、今でもサイコ扱いは変わらないけどな。

 小学三年から付き合いが始まって、今はもう随分と時間が経った。だが、健太郎くんとの友人関係が途切れることは、この先恐らくないだろう。どんなことがあっても、な。

 そう、おれたちの関係に終わりなんかありゃしないのだ。

 アスタラビスタ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み