【冷たい墓石で鬼は泣く~捌拾参~】
文字数 631文字
急な薄ら寒さを感じた。
目が覚めてしまった。辺りは紙に墨汁をぶちまけたかのように真っ暗だった。そこから見るに、まだそんなに時間は経っていないようだった。ここ数日、ろくに寝ていないというのに、身体が寝ることを拒んでいるようだった。身体はいかなる時もワガママだ。意識は眠りたいと思っていても、それを許さない。人はいつだって身体に縛られている。
わたしは寝転んだままゆっくりと身体を伸ばした。流石に数日寒い中でずっと座っていたこともあってか、身体中が強張っていた。背中を中心に色んなところが伸び、それが心地よく感じた。が、風が小屋の壁に出来た隙間から侵入して、またすぐにでも強張ってしまいそうだった。わたしは大きく息をーー
音が聴こえた。
気のせい、だろうか。わたしは息を止め、外から聴こえる音に気を張った。風がうるさかった。風というヤツは何処までも邪魔なだけだった。身体は冷え、感覚も狂う。もしかしたら、無駄に気が張ってそういう音が聴こえるような気がしているだけかもしれない。
耳を澄ませた。聴こえるのは風の音だけだ。やはり、気のせいだったか。わたしは再び目を閉じて少しでも寝ようとした。
ーー聴こえた。
間違いなかった。可笑しな音が聴こえた。普段なら何とも思わない砂利を踏みしだく音だった。音を最小限に留めているつもりなのだろうが、わたしにはハッキリ聴こえた。
わたしは寝返りを打ちつつ戸に背を向けた。左手は自然と刀の鍔に掛かっていた。
誰か、来るーー
【続く】
目が覚めてしまった。辺りは紙に墨汁をぶちまけたかのように真っ暗だった。そこから見るに、まだそんなに時間は経っていないようだった。ここ数日、ろくに寝ていないというのに、身体が寝ることを拒んでいるようだった。身体はいかなる時もワガママだ。意識は眠りたいと思っていても、それを許さない。人はいつだって身体に縛られている。
わたしは寝転んだままゆっくりと身体を伸ばした。流石に数日寒い中でずっと座っていたこともあってか、身体中が強張っていた。背中を中心に色んなところが伸び、それが心地よく感じた。が、風が小屋の壁に出来た隙間から侵入して、またすぐにでも強張ってしまいそうだった。わたしは大きく息をーー
音が聴こえた。
気のせい、だろうか。わたしは息を止め、外から聴こえる音に気を張った。風がうるさかった。風というヤツは何処までも邪魔なだけだった。身体は冷え、感覚も狂う。もしかしたら、無駄に気が張ってそういう音が聴こえるような気がしているだけかもしれない。
耳を澄ませた。聴こえるのは風の音だけだ。やはり、気のせいだったか。わたしは再び目を閉じて少しでも寝ようとした。
ーー聴こえた。
間違いなかった。可笑しな音が聴こえた。普段なら何とも思わない砂利を踏みしだく音だった。音を最小限に留めているつもりなのだろうが、わたしにはハッキリ聴こえた。
わたしは寝返りを打ちつつ戸に背を向けた。左手は自然と刀の鍔に掛かっていた。
誰か、来るーー
【続く】