【帝王霊~百拾壱~】

文字数 689文字

 人の死ほど実感のないモノもないだろう。

 少なくともあたしはそう思う。それが特に身近な人間であればあるほど、そう思うのは当然のことだと思う。

 人間は日々の生活のルーティンの中で、そこにある景色や環境、周りにいる人間の存在を当たり前のように思っている節があると思う。だが、それはむしろ当たり前ではない。そして、それがわかるのは急激な変化という名の暴力によって、だ。

 さっきまで一緒に仕事していた同僚が、夜中に火事を起こして翌日にはこの世からいなくなっているかもしれない。或いは、今そこにある現実が地震によって破壊され、環境は崩れ落ち、たくさんの命が失われるかもしれない。あまりこういうことを云いたくはないのだけど、この世界に当たり前何てモノはなくて、今そこにある瞬間に感謝して生きなければならないのかもしれない。

 何度見ても人の死には慣れないモノだ。高城さん。ヤーヌスの手に掛かって死んだあたしの恩師。そして、その恩師は今あたしの背後霊となって存在しているという。

 背後霊ーーどういう条件があれば、死んだ人間は背後霊になるのだろうか。きっと、たくさんの愛があるか、たくさんの憎しみがあるかのどちらかひとつでしかないだろう。

 高城さんはあたしの背後霊であり守護霊であるという。だとしたら、高城さんはあたしに対して憎しみは持っていないと信じていいのだろう。......本来、あたしはこういうことは信じないたちなのだが、こういう光景を見てしまった後ではそう考えざるを得ない。

 そして、今のあたしが願うことはーー

 詩織の愛が、今悲しげに顔を伏せている兄の元へ届くことだけだった。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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