【冷たい墓石で鬼は泣く~拾参~】
文字数 1,356文字
中途半端、そのことばが頭の中で回っていた、回り続けていた。
それが図星だったのはいうまでもない。だが、それ以上に堪えたのは、そういい放ったのが他でもない馬乃助であったことだろう。馬乃助、頭抜けた男。わたしと同じ日に生まれ、同じ両親に育てられた。にも関わらず、ここまで差がつこうモノとは思ってもいなかった。
馬乃助は中途半端とは程遠い存在だった。学問も剣術も、間違いなく自分の型を持ち、誰かの真似事ではない、馬乃助だけのモノを持っている。
自分だけのモノを持つ。これは何事においてもある程度の腕前を持っていなければならず、そこがなければ結局そこには不細工な「自分らしさもどき」があるだけで、あるのは下手な誰かの模倣だけ。
わたしはまず間違いなく下手な誰かの模倣をしているだけといって良かった。それは道場の先輩であり、師範であり、師範代であったりした。だが、馬乃助は違った。もちろん底辺にて骨組みを作っているのは師範から教わった技術であるのはいうまでもない。だが、それは模倣ではなかった。
この差は果たして何なのか。昔のわたしにはそれが何なのかわからなかったが、今ならわかる。それはーー
技術が血となり肉となっているかどうかだろう。
馬乃助は師範から教わった技術を自分のものとし、それを工夫、応用して作り替える能力に長けていた。だが、わたしは違う。師範の業や師範代、先輩に同輩と様々な人の技術を表面的にさらうばかりで、血肉と化していない。だからこそ、そこに奥行きがない。奥行きがないから、腕がない。そういうことだ。
わたしのこころはボンヤリとしていた。
自分が何をしたいのか。おはるの働く茶屋を遠目で見詰めながら、わたしはボーッとしていた。と、おはるちゃんがこちらに気づいた。おはるちゃんは顔を真っ赤にして、ペコリと頭を下げて店の奥に下がっていってしまった。
好きだ。あのことばは一時の気の迷いであったのか。それとも、勢いでついいってしまっただけなのか。
......いや、違う。
わたしはおはるちゃんのことが好きだ。その気持ちに偽りはなかった。だが、世襲だとか、身分というモノがわたしの恋路を縛り付けていた。そういったしがらみが、わたしのこころを縛り付けていた。
......いや、だからこそ中途半端なのではないのか。
本当に本気なのであれば、そんなしがらみをぶち壊してでも自分の想いを貫くだろう。だが、わたしはこころの何処かで怯えていた。そのしがらみを破ること。それが怖くて仕方なかった。それを破れば生きていけないと思ったのだ。
だが、馬乃助は違う。あの男は平気でそういったしがらみを破るだろう。だからこそ、中途半端でない確固たる結果を出しているのだから。
「あの......」
突然声を掛けられ、わたしはハッとした。わたしに声を掛けたのはおはるちゃんだった。場所は茶屋から少し離れたところ。なのに何故。わたしはしどろもどろになりながら、何かを話そうとしたが、ことばは滑らかには出てこなかった。
「......な、何か?」
わたしの問いにおはるちゃんはモジモジしながら、視線を落としつついった。
「良かったら......、お茶していきませんか......?」
花吹雪がわたしを置いてきぼりにしたようだった。
【続く】
それが図星だったのはいうまでもない。だが、それ以上に堪えたのは、そういい放ったのが他でもない馬乃助であったことだろう。馬乃助、頭抜けた男。わたしと同じ日に生まれ、同じ両親に育てられた。にも関わらず、ここまで差がつこうモノとは思ってもいなかった。
馬乃助は中途半端とは程遠い存在だった。学問も剣術も、間違いなく自分の型を持ち、誰かの真似事ではない、馬乃助だけのモノを持っている。
自分だけのモノを持つ。これは何事においてもある程度の腕前を持っていなければならず、そこがなければ結局そこには不細工な「自分らしさもどき」があるだけで、あるのは下手な誰かの模倣だけ。
わたしはまず間違いなく下手な誰かの模倣をしているだけといって良かった。それは道場の先輩であり、師範であり、師範代であったりした。だが、馬乃助は違った。もちろん底辺にて骨組みを作っているのは師範から教わった技術であるのはいうまでもない。だが、それは模倣ではなかった。
この差は果たして何なのか。昔のわたしにはそれが何なのかわからなかったが、今ならわかる。それはーー
技術が血となり肉となっているかどうかだろう。
馬乃助は師範から教わった技術を自分のものとし、それを工夫、応用して作り替える能力に長けていた。だが、わたしは違う。師範の業や師範代、先輩に同輩と様々な人の技術を表面的にさらうばかりで、血肉と化していない。だからこそ、そこに奥行きがない。奥行きがないから、腕がない。そういうことだ。
わたしのこころはボンヤリとしていた。
自分が何をしたいのか。おはるの働く茶屋を遠目で見詰めながら、わたしはボーッとしていた。と、おはるちゃんがこちらに気づいた。おはるちゃんは顔を真っ赤にして、ペコリと頭を下げて店の奥に下がっていってしまった。
好きだ。あのことばは一時の気の迷いであったのか。それとも、勢いでついいってしまっただけなのか。
......いや、違う。
わたしはおはるちゃんのことが好きだ。その気持ちに偽りはなかった。だが、世襲だとか、身分というモノがわたしの恋路を縛り付けていた。そういったしがらみが、わたしのこころを縛り付けていた。
......いや、だからこそ中途半端なのではないのか。
本当に本気なのであれば、そんなしがらみをぶち壊してでも自分の想いを貫くだろう。だが、わたしはこころの何処かで怯えていた。そのしがらみを破ること。それが怖くて仕方なかった。それを破れば生きていけないと思ったのだ。
だが、馬乃助は違う。あの男は平気でそういったしがらみを破るだろう。だからこそ、中途半端でない確固たる結果を出しているのだから。
「あの......」
突然声を掛けられ、わたしはハッとした。わたしに声を掛けたのはおはるちゃんだった。場所は茶屋から少し離れたところ。なのに何故。わたしはしどろもどろになりながら、何かを話そうとしたが、ことばは滑らかには出てこなかった。
「......な、何か?」
わたしの問いにおはるちゃんはモジモジしながら、視線を落としつついった。
「良かったら......、お茶していきませんか......?」
花吹雪がわたしを置いてきぼりにしたようだった。
【続く】