【ナナフシギ~死拾睦~】
文字数 1,052文字
人間、どう足掻いたところで個人は個人に過ぎない。
それは仮に周りにたくさんの人がいたとしても、自分の足で立てるのは自分自身でしかないということだ。無理矢理に立たされたとしても、自分から立とうという意志がなければ、すぐに身体は崩れ落ちてしまう。
人間は結局のところ、自分がどうしたいか、どうありたいかで決まってしまう。その人が知っていることを他の人が必ず知っているとは限らないし、その人が出来ることを他の人が出来るとは限らないということだ。
それはいうまでもなく、痛みを感じることも同様であるということだ。
人には痛覚がある。殴られれば痛いし、何処かに身体の一部をぶつければ思わず苦痛に顔を歪めることとなるだろう。
だが、そういったモノはまだ物理的な現象であって、一見して痛みが伝わって来るようなに視覚に訴え掛けて来るモノがあるからまだいいだろう。問題は肉体的な苦痛ではなく、精神的な苦痛である。そればかりは苦痛にさいなわれている本人にしかわかりはしない。オマケに、精神的な苦痛というのは、ある人には耐えられるモノであっても、ある人には耐えられないという厄介な存在だ。故に相手がどれほどの苦痛をこころに刻んでいるのかは、その本人にしかわからない。
エミリのいうことはもっともだった。自分にはアナタの苦しみがわからない。それは自分が苦しみを受けている本人ではないからだ。だが、だからといって何も出来ないワケでは決してない。相手が受けている苦痛を理解しようとすることは出来る。寄り添うことが出来る。逆にいえば、人間に出来ることなどその程度でしかないのかもしれない。そして、それが相手にとって、とてもありがたいことであることもーー
「......何だよそれ」少女の声は小さく震えていた。「お前に何がわかるんだよ......」
その重ね重ねの質問に対して、エミリは何もいわなかった。ただ意思の強い視線と表情を少女に向けるばかりだった。
その内、すすり泣く声が入り交じり、その声は少しずつ大きくなって、最後には階中に響き渡るほどに大きくなった。
エミリはゆっくりと少女に近づくと、彼女のことをそっと抱き締めた。
「......辛かったね。でも、もう大丈夫だよ、大丈夫だからね」
いつしかエミリのことばにも涙が入り交じっていた。祐太朗は目の前で起きていることをただ呆然と見詰めているばかりだった。
気づいた時にはエミリの腕の中で泣いていた少女の姿は霞のように消えていた。
残されたのは、暖かな雰囲気だけだった。
【続く】
それは仮に周りにたくさんの人がいたとしても、自分の足で立てるのは自分自身でしかないということだ。無理矢理に立たされたとしても、自分から立とうという意志がなければ、すぐに身体は崩れ落ちてしまう。
人間は結局のところ、自分がどうしたいか、どうありたいかで決まってしまう。その人が知っていることを他の人が必ず知っているとは限らないし、その人が出来ることを他の人が出来るとは限らないということだ。
それはいうまでもなく、痛みを感じることも同様であるということだ。
人には痛覚がある。殴られれば痛いし、何処かに身体の一部をぶつければ思わず苦痛に顔を歪めることとなるだろう。
だが、そういったモノはまだ物理的な現象であって、一見して痛みが伝わって来るようなに視覚に訴え掛けて来るモノがあるからまだいいだろう。問題は肉体的な苦痛ではなく、精神的な苦痛である。そればかりは苦痛にさいなわれている本人にしかわかりはしない。オマケに、精神的な苦痛というのは、ある人には耐えられるモノであっても、ある人には耐えられないという厄介な存在だ。故に相手がどれほどの苦痛をこころに刻んでいるのかは、その本人にしかわからない。
エミリのいうことはもっともだった。自分にはアナタの苦しみがわからない。それは自分が苦しみを受けている本人ではないからだ。だが、だからといって何も出来ないワケでは決してない。相手が受けている苦痛を理解しようとすることは出来る。寄り添うことが出来る。逆にいえば、人間に出来ることなどその程度でしかないのかもしれない。そして、それが相手にとって、とてもありがたいことであることもーー
「......何だよそれ」少女の声は小さく震えていた。「お前に何がわかるんだよ......」
その重ね重ねの質問に対して、エミリは何もいわなかった。ただ意思の強い視線と表情を少女に向けるばかりだった。
その内、すすり泣く声が入り交じり、その声は少しずつ大きくなって、最後には階中に響き渡るほどに大きくなった。
エミリはゆっくりと少女に近づくと、彼女のことをそっと抱き締めた。
「......辛かったね。でも、もう大丈夫だよ、大丈夫だからね」
いつしかエミリのことばにも涙が入り交じっていた。祐太朗は目の前で起きていることをただ呆然と見詰めているばかりだった。
気づいた時にはエミリの腕の中で泣いていた少女の姿は霞のように消えていた。
残されたのは、暖かな雰囲気だけだった。
【続く】