【一年三組の皇帝~参拾玖~】
文字数 1,041文字
昼時、給食の味はしなかった。
というより、ただ食料を腹の中に入れるだけで、味わって食べなかったというのが正しいのかもしれなかった。給食は嫌いではないけれど、少なくともこの日の給食はまったくおいしくもなかったし、食べたこともまともに覚えていなかった。
給食が終わるとそのまま清掃の時間となる。ぼくはホウキでほこりの溜まった床を掃きながら、今後のことを考えていた。どうする。こうか。違う。いやーー
腹はとっくに決まっていた。問題はその『中間』のことである。そう、腹を決めるまでは簡単だ。それ自体は自制心という問題を除いて考えればビルの最上階から身を投げるように簡単なのだから。
しかし、そう考えていたところで時間は無情にも去っていく。やはり、その場その場で何とか対処するしかないのかもしれない。そうだ。あらゆる計画も結局はすべてがその通りに行くことなんてない。ビビればレインボーブリッジも吊り橋に見えるだけだ。
清掃の時間が終わると昼休みとなり、再びあの時間がやって来る。『ネイティブ』。それはまるで地獄のような時間。亡者のようになったヤツが声を上げ、机をくっつけるとそのまま勝負を始める。そのサークルの中に田宮もいる。ただ、そこにはもはや笑顔はない。ギャンブルに狂った歪んだ顔があるだけ。
教室のうしろではつまらなそうな顔した辻たち三人が『ネイティブ』のサークルのほうを見ていた。辻と目が合った。辻はぼくの顔をじっと見たかと思うと、そのまま顔を背けた。恐らく、もうぼくのことは当てにしていないのだろう。まぁ、それでも構わない。
ぼくはフッと口許を弛ませた。
その時、何処かで名前を呼ばれた気がしたが、ぼくはそれに対して反応はしなかった。ぼくはもはやそれどころではなかった。
立ち上がった。まるですべてがスローになっているようだった。ぼくが立ち上がるのも、イスを入れるのも、一歩一歩、歩を進めて行くのも。すべてが遅く感じられた。
足を止めた。
「あれ?」関口がぼくの存在に気づいた。「林崎くん、どうしたの?」
ぼくの名前を聞いて、サークルのメンバーだけでなく、クラス中の人たちまでもがこちらに注目して来た。その中には当然、辻たち三人の姿もあった。何で?ーーそう表情が物語っていた。それから野崎、片山さん、和田、そしてハルナ。みんなの注目がぼくのほうへと集まっていた。
ぼくはいったーー
「勝負、しようか」
途端に教室の中が燃え上がるように盛り上がりを見せた。もう、逃げられない。
【続く】
というより、ただ食料を腹の中に入れるだけで、味わって食べなかったというのが正しいのかもしれなかった。給食は嫌いではないけれど、少なくともこの日の給食はまったくおいしくもなかったし、食べたこともまともに覚えていなかった。
給食が終わるとそのまま清掃の時間となる。ぼくはホウキでほこりの溜まった床を掃きながら、今後のことを考えていた。どうする。こうか。違う。いやーー
腹はとっくに決まっていた。問題はその『中間』のことである。そう、腹を決めるまでは簡単だ。それ自体は自制心という問題を除いて考えればビルの最上階から身を投げるように簡単なのだから。
しかし、そう考えていたところで時間は無情にも去っていく。やはり、その場その場で何とか対処するしかないのかもしれない。そうだ。あらゆる計画も結局はすべてがその通りに行くことなんてない。ビビればレインボーブリッジも吊り橋に見えるだけだ。
清掃の時間が終わると昼休みとなり、再びあの時間がやって来る。『ネイティブ』。それはまるで地獄のような時間。亡者のようになったヤツが声を上げ、机をくっつけるとそのまま勝負を始める。そのサークルの中に田宮もいる。ただ、そこにはもはや笑顔はない。ギャンブルに狂った歪んだ顔があるだけ。
教室のうしろではつまらなそうな顔した辻たち三人が『ネイティブ』のサークルのほうを見ていた。辻と目が合った。辻はぼくの顔をじっと見たかと思うと、そのまま顔を背けた。恐らく、もうぼくのことは当てにしていないのだろう。まぁ、それでも構わない。
ぼくはフッと口許を弛ませた。
その時、何処かで名前を呼ばれた気がしたが、ぼくはそれに対して反応はしなかった。ぼくはもはやそれどころではなかった。
立ち上がった。まるですべてがスローになっているようだった。ぼくが立ち上がるのも、イスを入れるのも、一歩一歩、歩を進めて行くのも。すべてが遅く感じられた。
足を止めた。
「あれ?」関口がぼくの存在に気づいた。「林崎くん、どうしたの?」
ぼくの名前を聞いて、サークルのメンバーだけでなく、クラス中の人たちまでもがこちらに注目して来た。その中には当然、辻たち三人の姿もあった。何で?ーーそう表情が物語っていた。それから野崎、片山さん、和田、そしてハルナ。みんなの注目がぼくのほうへと集まっていた。
ぼくはいったーー
「勝負、しようか」
途端に教室の中が燃え上がるように盛り上がりを見せた。もう、逃げられない。
【続く】