【冷たい墓石で鬼は泣く~睦拾参~】

文字数 1,148文字

 物事というのは次第に度が増して行くモノだ。

 それは藤十郎様のわたしから逃げようとする様も同様だった。最初こそは時刻通りに所定の場所に来ない程度のモノだったが、それが厠に隠れるモノから、それがダメになれば縁の下に隠れ、縁の下がダメなら天井に隠れる。はたまた、今度は屋敷から抜け出そうとまでしてしまう。

 わたしは呆れんばかりだった。どうしてわたしから逃げるためならそのような行動力を見せられるのに、稽古や学問においてはその集中力や行動力を見せられないのか。

 まぁ、これに関していってしまえば、単純にやる気もなければ、興味もないからだというのはわかっていた。何故ならわたしもそういう人間だったから。そう、ある意味ではわたしと藤十郎様は似ている。正直、藤十郎様のそういった行動や何かに不快感を抱くのも、わたしが藤十郎様と同類に違い存在だからだろうと改めて思うのだ。

 先程、屋敷の外へと逃げてしまうといったが、これがまた厄介だった。時にはそう見せ掛けて、わたしや他の従者たちが外へと探しに行かせ、実は自分は屋敷の中にいるなんてどうしようもない引っ掛けをしてくることもザラだった。だが、それ以上に外に出られるのは困ったモノだった。

 それはいうまでもなく、屋敷の外はあまりにも広すぎるからだ。そう、水戸の街も将軍のお膝元であるが故になかなか栄えた街なのだ。故に、街全体も広いし、何よりその人だかりはスゴく、手を伸ばせば届く程度の距離でも人混みのせいで何がどうなっているのかわからない有り様なのだ。

 そんな中で藤十郎様を探すのは、いうまでもなく骨が折れた。結局、わたしや従者たちで知恵を振り絞って藤十郎様が行きそうな場所をいくつか選定し、直接調べることで何とか見つけ出すことが出来た。

 こんなことが何度かあったせいで、水戸の奉行所や番屋に控える与力や同心たちには、もし藤十郎様を見掛けたら、一刻も早く武田の屋敷に知らせるよう伝えられていた。ちなみに直接会って話をさせたところ、賄賂を渡して見逃すようにいわれて、同心たちは知らぬ存ぜぬを突き通すことがあったため、同心たちが藤十郎様に直接接触することは禁止されることとなった。

 しかし、本当に呆れんばかりだ。屋敷へ連れ帰り、一室で藤乃助様と藤十郎様、そしてわたしの三人で話し合うこともあった。

「何故、寅三郎のいうことが聞けぬのだ」

 藤乃助様も完全に呆れ果てた様子で藤十郎様にいった。すると、藤十郎様はーー

「この者がイヤだからです」

 と、まったく気遣いをする様子もなく、そういってのけた。藤乃助様もそのことばを聞いて大きなため息を吐いた。

「わかりました」わたしはいった。「そういうことならばーー」

 藤乃助様の表情は緊張に満ち、藤十郎様の表情は喜びに満ちた。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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