【セルフィッシュから逃げ出して】

文字数 3,870文字

 世知辛い話が多い気がする。

 これは別に例のウイルス関連の話に限った話ではなく、おれがフォーカスしたいのは、男と女の話についてだ。

 例のウイルス騒動が始まって実に一年半以上となるワケだけど、その間は自粛だったり、人と人との距離感に気をつけて社会生活を送るようになったりとなかなかに人と人とのレンジも広くなりがちだ。

 とはいえ、そんな中でもおめでたい話は多いように思える。というのも、結婚だったり、恋人ができましたみたいな話が、世間一般だけでなく、自分の周りでも普通に多かったのだ。

 これに関しては不思議でならない。どうしてこの一年半程度で、こんなにも男女間での交流が盛んになったのか。

 多分、自粛だとかそういった閉塞感が、男と女の気持ちを昂らせたのだろう。個人的には、これはある種の「吊り橋効果」なんじゃないかとも思っている。

 まぁ、そんな中、かくいうおれはまったくといっていいほど男女の仲というヤツには無縁な生活をしている。

 そういった男女の仲睦まじい感じが羨ましいかといわれたら、羨ましい気はする。だが、別に妬むようなことでもない。おれはおれで楽しくやってるしな。

 それに個人的な話をすると、おれは恋愛というモノにはまったく縁も才能もなく、今となってはそんなモノに時間を費やすくらいなら、もっと別のことをしようとなってしまった。

 そう、おれには本当にその手の縁もなければ、才能もなかった。

 別にまだチャンスはあるだろうとも思われるかもしれないけど、これから先、恋愛のようなことをしたいとは思っていない。その理由はというとーー

 淀んだ話を聴きすぎてしまって、嫌気が差してしまったからだ。

 淀んだ話というとわかりづらいかもしれないけど、早い話が、破局や離婚といった話だ。

 まぁ、別に円満ならばいいのだけど、別れ話というのは、どうにもそうなりづらく、泥沼化しやすいのが現実だ。

 先ほど、世間的にも自分の周辺でもおめでたい話が多いとはいったけれど、どういうワケかそれに比例するように淀んだ話というのも多い気がするのだ。

 そりゃ、人と人がくっつくこともあれば、人と人が離れるのも当たり前にある話だ。だが、これがワイドショーのひと幕でなく、自分の周りに多くなったとなると、自分がまったく関係ない話でも何だか複雑な気持ちになるのだ。

 ここ最近だけで、昔の彼女が離婚をし、かつての同僚が相手の不倫によって離婚調停中だとか、同僚のひとりに離婚の危機が迫っているだとかそんな話ばかり聴くようになった。

 そういう話を聴く度に、おれはイヤになってしまうのだ。そして、恋人を作ることすらしたいとも思わなくなってしまう。

 まぁ、おれも恋愛モノのシナリオを書いてはいるけど、あれは所詮、おれの中での理想化された恋愛でしかなく、あぁいうモノを書くのも、おれの中での恋愛が腐った果実のように食えないモノに成り下がってしまったからだったりする。そうーー

 悲しいことに、おれはもう恋愛にロマンを感じなくなってしまっている。

 さて、今日はそうなった切っ掛けの話をひとつしていこうと思う。ちなみに今回はかなり情報を伏せる方向で書いてく。

 あれは大学を卒業してすぐのことだった。

 その頃のおれはパニックの真っ只中。人がいる所に行けば吐き気と恐怖に襲われ、まともな生活など出来る感じでもなかった。

 そんな中、とある友人にメシを食いに行こうと誘われたのだ。おれは、自分の孤独なマインドを癒さんとでもいわんばかりに、僅かなポケットマネーを持って誘いを受けたのだ。

 そこで、あの女に出会ったのだ。

 彼女の名前は草野さん。小中学校の同級生で、低めの身長にどこか虚ろな目が特徴的な女子だった。ちなみに中学時代は地味にモテていたーーのだと思う。

 飲みは楽しかった。やはり、人のいるところに行ったこともあって、しんどい部分もあったとはいえ、一緒にいた友人のお陰もあってか、何とか何事もなく楽しんで飲みを終えることができた。久しぶりに会った草野さんとも連絡先を交換し、まぁ、苦痛だらけの日常の中に、久しぶりのオアシスが舞い込んだのだった。

 後日、草野さんから電話があった。用件は、今夜会えないかということだった。何だろうと思いつつ、おれはその要求を飲んだ。

 夜になって、駅前の居酒屋で草野さんと会うと、草野さんは早々にこう切り出した。

「五条くんのこと、好きになっちゃった。付き合って欲しいんだ」

 そういわれて嬉しかったかといわれると、それはイエスだが、困惑もした。というのも、

 草野さんには彼氏がいたのだ。

 それもソイツは平山という小中学校の同級生で、おれも面識のあるヤツだった。

「いや、でも、平山と付き合ってんじゃん」

 おれがいうと、草野さんはーー

「飽きちゃった。五条くんがいい」

 これには困惑を通りすぎてヤバイにおいしかしなかった。仮に、これでおれが付き合うという結論を出したとて、恐らくは平山と同じ結末を辿ることとなるだろうとは容易に想像がついた。一度人を裏切った者は、生涯人を裏切り続けるモンだからな。

「いや、でも、平山と付き合っている限りは、おれも付き合えないよ」

 おれは逃げの一手でそう答えた。結局、その日はそれで終わったのだけど、また後日、草野さんから連絡が来たのだ。何でも、家に遊びに来ないかとのことだった。

 おれは甘かった。ダメだろうと思いつつも、草野さんの好意に叛くのは如何なモノかと思ってしまったのだーー今なら考えられんな。

 そんなこともあって、おれは草野さんの家に遊びに行ったのだが、そこでーー

「うちの家族と一緒にごはん食べてよ」

 と草野さんにいわれたのだ。いやいや、どうしてそうなる。彼氏でもない、ただの友人とまるで顔合わせみたいな感じで草野さんの家族とメシを共にしなければならないのか。おれはワケがわからなくなっていた。

 あぁ、コイツ、やばいなーーそう思い、おれは彼女を避けようと決めた。

 数日後、五村市駅周辺で五村祭があり、おれはとある友人と一緒に行くことになっていた。が、そこで草野さんから連絡があった。内容はいうまでもなくーー

 一緒に五村祭に行かないか、というモノだった。

 おれはとある友人と行くからと答えた。そしたら、彼女からこういうメールが入ったのだ。

「じゃあ、○○くんに一緒に行っていいか訊いてよ」

 何でそうなるって感じだったのだけど、おれは仕方なしに友人に訊くことにした。本当に愚かだったと思う。

 大体、この友人は中学の卒業式に草野さんに告白して酷いフラれ方をしているのだ。だからこそ、この友人も断ってくれるだろうと思ったのだが、結果は真逆。草野さんも同行することとなってしまったのだ。

 まぁ、詳しくはいわないけど、本当に酷いモンだった。その友人から後日、

「草野さんと付き合ってるの?」

 と訊かれた時は生きた心地がしなかったよな。それはさておき、この祭りの件で、草野さんがヤバイということに気づいてしまい、おれは可能な限り電話には出ないし、メールの頻度も大幅に落としたのだ。

 が、余りの電話の多さに辟易とし、電話に出てしまったのだ。そしたら、

「何で電話に出ないの? 今日遊びに来て」

 である。断ろうかとも思ったが、断る前に電話が切れてしまった。メールで断ろうとするも聞き耳を持たず。仕方なしに家に行くことに。

 家に行くと、草野さんは早々に、

「いつわたしと付き合うの?」

 と切り出して来た。いやいや……。おれは呆れ気味にいった。

「前もいったけど、キミが平山と付き合っている以上は付き合えないよ」

 そういうと草野さんは、

「そ、わかった。待ってて」

 と携帯電話を取り出して電話を掛けると、

「平山くん? 距離を取りたいんだけど。じゃあね」といって電話を切り、「はい。別れた。付き合ってよ」

 もうワケがわからなかった。おれは完全に混乱していた。距離を取る。それって別れたことになるのだろうか。

「いやいや、距離を取るって。それじゃ別れたことにはならんだろうに。ちゃんと会って話つけて来なきゃダメでしょうが」

 何で異常者の県選抜みたいなおれがマトモな立場にいるのか皆目意味不明なのだけど、それくらいに狂った話だった。

 それから数日後、草野さんは平山と話をつけることになったのだが、そこで彼女は電話でおれにこういったのだーー

「五条くんも一緒に来て。イヤならお父さんに一緒に来て貰う」

 ダメだコイツ。完全にイカれてる。結婚もしてない恋人の別れ話に親が出るのも可笑しな話だし、そこにおれが行くのも変だ。まるで、おれを用心棒にせんといわんばかりだしな。

 おれはいうまでもなく断った。そして、ひとりで行くよういった。結局、彼女もそれを受け入れて平山と話をしに行ったのだけど、その日に送られて来たメールが、

「平山くんとやり直すから付き合えない。ゴメン」

 という内容。何でおれがフラれてるんだろうと不思議だったが、これで漸く肩の荷が降りたーーと思いきや、

 それから毎日、電話とメールである。

 おれは完全に疲れていた。それから草野さんからのメールと電話を完全に無視し、何とか逃げ切ったのだった。

 ちなみに、この後、草野さんは外山にも手をつけようとしたのだけど、外山もおれから話を聴いていたので、即座に断って逃げたとさ。

 やっぱ、おれには縁もなければ、恋愛の才能もないんだろうね。ま、不自由してないし、別にいいんだけどさ。

 異性との関係にはアンタらも気をつけてな。

 アスタラ。
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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