【ナナフシギ~伍拾~】
文字数 1,051文字
偶然というのはそう起こり得ることではない。
だからこそ偶然なのであるし、もしそれが絶対的に決まっていることであれば、それは偶然ではなく必然となってしまう。
だが、弓永や森永だけでなく、石川先生が生徒たちと出会うことは半分は必然とならなければならなかった。何故なら、そうでなければ、石川先生を救い出すことは出来なかっただろうし、仮に死が彼らを捕らえたとしても、彼らに待っているのは恐らくは地獄か霊道。つまり、悪夢への道連れ、運命共同体ということになっていた。
「石川先生ぇ!」
弓永ほいつもの何かを小馬鹿にしたような話とは裏腹に、真剣なトーンで石川先生のことを呼び掛けた。石川先生の顔色は良くはないが、悪すぎもしなかった。体温も冷たくはなく、微かに温もりが残っていた。
生きているーー弓永は呟いた。
森永はどうにかしなくちゃとパニックになっていた。弓永は真剣な面持ちで石川先生の名前を呼びながら、軽く頬を何度か叩いた。
石川先生の顔がピクリと動いた。
ハッとする弓永ーーより強く石川先生の名前を呼んで、肩を何度も叩いた。石川先生は唸り、寝返りを打とうとした。そしてーー
石川先生の目がしっかりと開いた。
まだここは霊道、生きて帰れる保証などこれっぽっちもなかった。だが、石川先生を生きた状態で発見出来たことは、弓永と森永に微かな安堵と希望を与えたようだった。ふたりは朗らかな笑顔で、目に涙を溜めながら石川先生の顔を眺め、彼女の名前を呼んだ?
「あれ......? キミたち、どうしたの?」石川先生は辺りの様子を軽く目で追っていった。「こんな夜に何してるの? 夏休みだからって夜更かし夜遊びはダメだよ」
弓永と森永は肩を震わせて、石川先生から顔を背けて、良かったと呟いた。ふたりとも表情が歪んでいた。
「どうしたの......? そんな喜んで」
状況を理解していなかったのは石川先生だけだった。弓永は何かをふるい落とすように首を振って口を開いた。
「いえ。でも先生、どうしてここに?」
「うーん」石川先生は首を傾げた。「それが、何も覚えてなくて......」
弓永の表情が固くなり、そしていった。
「ぼくらの名前と出席番号はわかりますか?」
「え?」呆気に取られたように石川先生はいった。「どうしたの、急に」
「答えて下さい」
急に冷たくなった弓永のモノいいに、森永も弓永の名前を呼びながら、制しようとした。が、弓永はーー
「名前を呼ぶな!」と怒鳴った。
弓永の怒号はふたりを呆然とさせ、闇の中へと消えていった。
【続く】
だからこそ偶然なのであるし、もしそれが絶対的に決まっていることであれば、それは偶然ではなく必然となってしまう。
だが、弓永や森永だけでなく、石川先生が生徒たちと出会うことは半分は必然とならなければならなかった。何故なら、そうでなければ、石川先生を救い出すことは出来なかっただろうし、仮に死が彼らを捕らえたとしても、彼らに待っているのは恐らくは地獄か霊道。つまり、悪夢への道連れ、運命共同体ということになっていた。
「石川先生ぇ!」
弓永ほいつもの何かを小馬鹿にしたような話とは裏腹に、真剣なトーンで石川先生のことを呼び掛けた。石川先生の顔色は良くはないが、悪すぎもしなかった。体温も冷たくはなく、微かに温もりが残っていた。
生きているーー弓永は呟いた。
森永はどうにかしなくちゃとパニックになっていた。弓永は真剣な面持ちで石川先生の名前を呼びながら、軽く頬を何度か叩いた。
石川先生の顔がピクリと動いた。
ハッとする弓永ーーより強く石川先生の名前を呼んで、肩を何度も叩いた。石川先生は唸り、寝返りを打とうとした。そしてーー
石川先生の目がしっかりと開いた。
まだここは霊道、生きて帰れる保証などこれっぽっちもなかった。だが、石川先生を生きた状態で発見出来たことは、弓永と森永に微かな安堵と希望を与えたようだった。ふたりは朗らかな笑顔で、目に涙を溜めながら石川先生の顔を眺め、彼女の名前を呼んだ?
「あれ......? キミたち、どうしたの?」石川先生は辺りの様子を軽く目で追っていった。「こんな夜に何してるの? 夏休みだからって夜更かし夜遊びはダメだよ」
弓永と森永は肩を震わせて、石川先生から顔を背けて、良かったと呟いた。ふたりとも表情が歪んでいた。
「どうしたの......? そんな喜んで」
状況を理解していなかったのは石川先生だけだった。弓永は何かをふるい落とすように首を振って口を開いた。
「いえ。でも先生、どうしてここに?」
「うーん」石川先生は首を傾げた。「それが、何も覚えてなくて......」
弓永の表情が固くなり、そしていった。
「ぼくらの名前と出席番号はわかりますか?」
「え?」呆気に取られたように石川先生はいった。「どうしたの、急に」
「答えて下さい」
急に冷たくなった弓永のモノいいに、森永も弓永の名前を呼びながら、制しようとした。が、弓永はーー
「名前を呼ぶな!」と怒鳴った。
弓永の怒号はふたりを呆然とさせ、闇の中へと消えていった。
【続く】