【冷たい墓石で鬼は泣く~弐拾死~】

文字数 1,125文字

 結果からいえば、父上はわたしの敵ではなかった。

 こういっては失礼なのは重々承知ではあるが、父上は身体の小さかったわたしや馬乃助に大人としての力と威厳だけで圧倒しようとしていただけの人に過ぎなかったということだ。その実、口だけで剣の腕などまったくといっていいほどなかったのだ。父上にとって幸いだったのは、彼が長男であったということぐらいだろう。でなければ、この牛野の家を継ぐことも難しかったのではないだろうか。正直、父上は学問も武術もわたし以下だったに違いない。

 ひざまずく父上の背中は何とも貧相で哀れなモノだった。父上が使った刀は恐らく無銘のナマクラなモノだったに違いない。だが、それは所詮、一回の殺し合いにすら真剣になれない程度の人間でしかなかったということだろう。

 折れた刀の刀身はわたしたちを大きく退いた場所で地面に突き刺さっていた。突き刺さった折れた刀身はまるで父上の墓標のようだった。

 父上の吐く息は荒かった。地面についている手も、自分の身体を支えるので手一杯といった感じで反撃してくる様子は皆無といっても可笑しくなかった。一応、残心は取ってはいたが、父上の腕はもはやブルブルと震えて使いモノにはなりそうもなかった。そもそも折れた刀身も鍔とはばきから数尺を残す程度しか残っておらず、とてもじゃないが反撃や奇襲をするには不十分だった。

 一瞬の出来事だった。

 上段に構えて突撃してくる父上に対してわたしは下段に構えを取っていた。父上の動きはまるで子供がハイハイするように鮮明に見えた。武士としては恥なくらい、動きは鈍かったのだ。刀を振り下ろそうとするその瞬間、わたしは刀を振り上げ、父上の刀を弾きつつ入り身になって父上の背骨を思い切り打った。

 父上の刀はその時折れた。

 父上の剣の腕は最低だった。身体は刀に振られていた。刀自体は大して重くないはずだ。重心が先重だったとしてもそれほどではなかったであろう。しかし、今もその当時も思い返してみても、父上が刀の稽古をしていたところなど全然見ていなかったし、身体を鍛えている節もまったくなかった。そして、肉体も年齢関係なくほっそりしたままで、動きも昔から鈍かったと改めて思い出された。

 そう、父上ははじめから敵ではなかったのだ。

 終わりですーーわたしは父上にそう告げ、もはや残心を取ることも止めて、霧の中へと歩いて行った。以降、わたしは父上はもちろん母上にも会っていない。風のウワサでは養子を取ったが、父上はすぐに亡くなって、跡継ぎはその養子が務めているとのことだ。母上はまだご存命で、その養子の支えになっているらしい。まぁ、詳しいことは実際に会ってみなければわからない。

 そう、実際にーー

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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