【一年三組の皇帝~伍拾~】
文字数 1,104文字
イヤな記憶というのは簡単に思い出せてしまうのが人間という生き物らしい。
それは一種の防衛本能で、次はそうならないように、ということで頭の中、こころの中に強く刻みつけるのだとかテレビで見たことがある。
確かに、いわれてみればそうかもしれない。幼稚園や小学生低学年のことなんか殆ど覚えていないのに、あるのは漠然とした楽しいという感情とピンポイントでイヤだった経験ばかり。ほんと不愉快なのに忘れることは出来ない。時にはそれが頭の中によぎってイヤな気持ちになってしまう。ほんと、人の脳の機能っていうのは欠陥が多すぎる。
そして今、ぼくの中では再びイヤな記憶がフラッシュバックしている。帰り道、ヤンキー三人に殴られた記憶。辻、山路、海野。あの時は戦略的に煽って殴らせはしたけど、だとしても、あの時の傷みや不快感は消えはしない。
ぼくの目の前にはあの時の三人組が立ちはだかっていた。スゴく不愉快そうに顔を歪ませていた。何がそんなに不愉快か。それはいわなくてもわかることだった。
ぼくの心臓は大きな鼓動を打っていた。正直怖くて仕方なかったが、ぼくはそのまとっている不快感や恐怖をはね飛ばすように歩き出した。まるで、見えない力が働いているようだった。何かがまとわりつくよう。強風がぼくの行く道を妨害しているようだった。
ぼくは重い足を何とか持ち上げ、辻たちの横を通り抜けようとした。
突然、肩を掴まれた。
辻だった。その目は細まって、獲物を逃さんとするようだった。海野と山路も同様の威圧感をこちらに向けていた。
「待てよ、ありゃどういうことだ?」
辻がいいたいことはわかっていた。どうして抜け駆けで関口たちに挑んだのか。
「あれって、何のことだよ」
ぼくは辻の手を振り切っていった。すると他のふたりが威圧的に声を荒げて寄ってきた。だが、それも辻の「やめろ」のひと声でストップした。そして、ぼくに理由を問い直すように更に強くぼくを睨んだ。
「とぼけんなよ。テメェ、何であの野郎とトランプやってやがった」
「そんなこと、お前に関係ないだろ? 単純にやりたくなったからやっただけだ」
「テメェ、おれらを裏切るのか?」
「裏切るも何も、手を結んでないだろ?」
そう。そもそも手なんか結んでいないのだ。痛いところを突かれたからか、海野と山路はぼくから目線を外した。だが、辻は尚もぼくのほうを見ていた。その視線には何か強い思いがあるように感じられた。
「ちょっと、顔貸せよ」
辻のことばに対して、ぼくは「イヤだ」と拒絶した。が、辻は、
「もしかして、おれたちがまたテメェをボコるとでも思ってんのか。んなことしねえよ」
ぼくは選択に迫られた。
【続く】
それは一種の防衛本能で、次はそうならないように、ということで頭の中、こころの中に強く刻みつけるのだとかテレビで見たことがある。
確かに、いわれてみればそうかもしれない。幼稚園や小学生低学年のことなんか殆ど覚えていないのに、あるのは漠然とした楽しいという感情とピンポイントでイヤだった経験ばかり。ほんと不愉快なのに忘れることは出来ない。時にはそれが頭の中によぎってイヤな気持ちになってしまう。ほんと、人の脳の機能っていうのは欠陥が多すぎる。
そして今、ぼくの中では再びイヤな記憶がフラッシュバックしている。帰り道、ヤンキー三人に殴られた記憶。辻、山路、海野。あの時は戦略的に煽って殴らせはしたけど、だとしても、あの時の傷みや不快感は消えはしない。
ぼくの目の前にはあの時の三人組が立ちはだかっていた。スゴく不愉快そうに顔を歪ませていた。何がそんなに不愉快か。それはいわなくてもわかることだった。
ぼくの心臓は大きな鼓動を打っていた。正直怖くて仕方なかったが、ぼくはそのまとっている不快感や恐怖をはね飛ばすように歩き出した。まるで、見えない力が働いているようだった。何かがまとわりつくよう。強風がぼくの行く道を妨害しているようだった。
ぼくは重い足を何とか持ち上げ、辻たちの横を通り抜けようとした。
突然、肩を掴まれた。
辻だった。その目は細まって、獲物を逃さんとするようだった。海野と山路も同様の威圧感をこちらに向けていた。
「待てよ、ありゃどういうことだ?」
辻がいいたいことはわかっていた。どうして抜け駆けで関口たちに挑んだのか。
「あれって、何のことだよ」
ぼくは辻の手を振り切っていった。すると他のふたりが威圧的に声を荒げて寄ってきた。だが、それも辻の「やめろ」のひと声でストップした。そして、ぼくに理由を問い直すように更に強くぼくを睨んだ。
「とぼけんなよ。テメェ、何であの野郎とトランプやってやがった」
「そんなこと、お前に関係ないだろ? 単純にやりたくなったからやっただけだ」
「テメェ、おれらを裏切るのか?」
「裏切るも何も、手を結んでないだろ?」
そう。そもそも手なんか結んでいないのだ。痛いところを突かれたからか、海野と山路はぼくから目線を外した。だが、辻は尚もぼくのほうを見ていた。その視線には何か強い思いがあるように感じられた。
「ちょっと、顔貸せよ」
辻のことばに対して、ぼくは「イヤだ」と拒絶した。が、辻は、
「もしかして、おれたちがまたテメェをボコるとでも思ってんのか。んなことしねえよ」
ぼくは選択に迫られた。
【続く】