【ナナフシギ~捌拾壱~】
文字数 707文字
学校は昨日までと雰囲気が違っていた。
霊道となった小学校からはまるで生気は感じられず、殆ど廃墟のようだったにも関わらず、今そこにある小学校はいつも通りの小学校が夜になって静かに眠りについているーーそんな印象だった。
学校側の駐車スペースに車を停めると岩淵は何もいわず、ただニヤニヤとして学校を眺めるばかりだった。祐太朗の表情はいうまでもなく固く暗かった。
「さっきの答えですがね」唐突に岩淵は口を開いた。「その通りです」
「......何が?」
「いってたじゃないですか。自分の夕食には睡眠薬を入れてないのか、って。実をいえば入れてました」
「......だろうな」
祐太朗はさもつまらなそうにいった。彼も彼とて岩淵がどういうことをするか、何となくの想像はついていたということだろう。岩淵は不気味にくくくと笑ってみせた。
「何で、って聞かないんですか?」
「訊いたところで答えないか適当なこといって逃げられるから訊いたって仕方ないだろ」
「そんなことありませんよ。まぁ、いってしまえば、今日大人しくしていらっしゃれば、すべては空を浮かぶ雲のようにいつの間にか過ぎていく、ということです」
「そうかよ」祐太朗はつまらなそうにいった。「相変わらず、汚ねえな」
「まぁ、そうはいいましたが、ね。わたしにだって負い目はあるんです。何もせずに何人もの人たちを見殺しにするようなことをしたのですから。とはいえ、坊っちゃんたちを巻き込むワケにはいかない。わたしは教祖様のご子息であるあなた方の世話係ですから」
「適当いってろ」
祐太朗は岩淵から顔を叛けるようにしていった。その視線の先にはデジタルの時計が「22時16分」と表示していた。
【続く】
霊道となった小学校からはまるで生気は感じられず、殆ど廃墟のようだったにも関わらず、今そこにある小学校はいつも通りの小学校が夜になって静かに眠りについているーーそんな印象だった。
学校側の駐車スペースに車を停めると岩淵は何もいわず、ただニヤニヤとして学校を眺めるばかりだった。祐太朗の表情はいうまでもなく固く暗かった。
「さっきの答えですがね」唐突に岩淵は口を開いた。「その通りです」
「......何が?」
「いってたじゃないですか。自分の夕食には睡眠薬を入れてないのか、って。実をいえば入れてました」
「......だろうな」
祐太朗はさもつまらなそうにいった。彼も彼とて岩淵がどういうことをするか、何となくの想像はついていたということだろう。岩淵は不気味にくくくと笑ってみせた。
「何で、って聞かないんですか?」
「訊いたところで答えないか適当なこといって逃げられるから訊いたって仕方ないだろ」
「そんなことありませんよ。まぁ、いってしまえば、今日大人しくしていらっしゃれば、すべては空を浮かぶ雲のようにいつの間にか過ぎていく、ということです」
「そうかよ」祐太朗はつまらなそうにいった。「相変わらず、汚ねえな」
「まぁ、そうはいいましたが、ね。わたしにだって負い目はあるんです。何もせずに何人もの人たちを見殺しにするようなことをしたのですから。とはいえ、坊っちゃんたちを巻き込むワケにはいかない。わたしは教祖様のご子息であるあなた方の世話係ですから」
「適当いってろ」
祐太朗は岩淵から顔を叛けるようにしていった。その視線の先にはデジタルの時計が「22時16分」と表示していた。
【続く】