【冷たい墓石で鬼は泣く~漆拾捌~】
文字数 585文字
わたしは大きく息を吐いた。
わたしにはやはり、腹を空かせてさ迷っているオオカミたちを切ることは出来なかった。ここでわたしが彼らを切らなかったからといって彼らがまたこの村に食料を求めてやって来ないとは限らないだろう。だが、わたしは少なくとも自分の手で彼らを殺すことは出来なかった。彼らだって必死なのだ。
わたしはゆっくりと懐に手を突っ込んだ。頭のオオカミが警戒してか唸り始めた。それは紛れもないわたしに対する敵対意識だった。痩せこけた頬が更に細く見えた。
わたしはゆっくりと懐からあるモノを出した。
ちょっとした包み。それを開くと三つの銀色に輝く握り飯が鎮座していた。夜半の見張りの際に空腹を紛らすためにと村人が作ってくれた夜食だった。わたしはその場に腰を下ろして彼らにその握り飯が見えやすいようにしてやった。握り飯が目に入ったからか、頭のオオカミは唸るのをやめた。その視線が握り飯のほうに向いていることはすぐにわかった。そうか、そんなに腹が減っているのか。
わたしは握り飯のひとつを軽く千切って頭のオオカミのほうに差し出してやった。頭のオオカミはそれを見てゆっくりと歩み寄ってきた。そして、クンクンと握り飯のにおいを嗅ぐと舐めるようにしてわたしの手のひらに載っていた握り飯の欠片を平らげてしまった。
仲間のための毒味。わたしは頭のオオカミの反応に注視したーー
【続く】
わたしにはやはり、腹を空かせてさ迷っているオオカミたちを切ることは出来なかった。ここでわたしが彼らを切らなかったからといって彼らがまたこの村に食料を求めてやって来ないとは限らないだろう。だが、わたしは少なくとも自分の手で彼らを殺すことは出来なかった。彼らだって必死なのだ。
わたしはゆっくりと懐に手を突っ込んだ。頭のオオカミが警戒してか唸り始めた。それは紛れもないわたしに対する敵対意識だった。痩せこけた頬が更に細く見えた。
わたしはゆっくりと懐からあるモノを出した。
ちょっとした包み。それを開くと三つの銀色に輝く握り飯が鎮座していた。夜半の見張りの際に空腹を紛らすためにと村人が作ってくれた夜食だった。わたしはその場に腰を下ろして彼らにその握り飯が見えやすいようにしてやった。握り飯が目に入ったからか、頭のオオカミは唸るのをやめた。その視線が握り飯のほうに向いていることはすぐにわかった。そうか、そんなに腹が減っているのか。
わたしは握り飯のひとつを軽く千切って頭のオオカミのほうに差し出してやった。頭のオオカミはそれを見てゆっくりと歩み寄ってきた。そして、クンクンと握り飯のにおいを嗅ぐと舐めるようにしてわたしの手のひらに載っていた握り飯の欠片を平らげてしまった。
仲間のための毒味。わたしは頭のオオカミの反応に注視したーー
【続く】