【師は平民の中にあり】
文字数 3,055文字
誰にだって「師」と呼べる人がいるはずだ。
いねえよといわれたらそれまでなんだけど、人間、生きていたらひとりはそういう人に出会う機会があると思うのだ。中には、本当はそういう存在だが、自分がそうと認知していないこともあるだろう。
かくいうおれには「師」と呼べる存在が五人くらいいる。いすぎだろ、と思われるかもしれないし、何でそんなに多いのかといわれたら、シンプルにジャンルが違うからだ。
勉学の師、人格の師、音楽の師、居合の師、そして最後が「芝居の師」だ。
さて、昨日の続きである。あらすじーー「強敵の出現に苦戦する城茂は、新たなる敵の大元帥と対峙する。が、それは罠だった。なんと、大元帥は城茂を誘き寄せ、遠く離れた場所にある石油コンビナートを爆破するという計画を部下である鎧騎士に託していたのだ。コンビナートを爆破しようとする鎧騎士。が、その計画を食い止める者がいた。それは、ギリシャから帰って来た『神敬介』だった!」
いつも以上に長いあらすじに、このエッセイの常連である神敬介が城茂を助けに登場してしまったのだけど、まだまだ何のことかはいわない。あ、興味ないですか。じゃあ、勝手にやっときますわ。
まぁ、本チャンのあらすじとしては、二度目の稽古見学にて立野さんという劇団員と出会い、立野さんのオリジナル台本を読んでこころが踊ったのだが、立野さんは諸事情により劇団を辞めることになり、おれはどこか寂しい気分になったのだ。
パーフェクトやね。正直、何で寂しい気分になったのかは自分でもわからん。まぁ、純粋だったんじゃねぇの?
では、始めてくーー
熱があった。芝居をやりたいという熱が。もっと色々な役をやりたい。好奇心は無限に跳ね上がり、おれを熱狂させる。おれは熱にうなされていた。そうーー
マジで熱が出てしまったのだ。
もうね、バカじゃねぇのって感じなんだけど、この時期、何故か体調がすこぶる悪かったんよな。そんなこともあって、一週、稽古に参加はできず。その翌週は参加できたのだけど、そこでもまだ入団はせず。代わりにショージさんが劇団に復団してました。
もはや三回も見学にくると、ヨシエさんにも
「いつ入んのよ」
と圧を掛けられるようになっておりまして。
更に翌週。おれとしては四回目の稽古見学だったんだが、見学も四回目ともなると随分と雑に扱われるようになっていて、思わず自分が見学者だとアピールしたくもなったのだけど、それはどうでもいい。
重要なのは、その日の稽古には、おれ以外にもふたりの見学者が来たということだ。ひとりは女性で、もうひとりは男性。
女性のほうは、名前を『河村弥生』といった。弥生はあおいの中学時代の友人で、中学の演劇部の部長であり、看板女優だったという。見た目はリスに似てる。
男性のほうは、『大原武明』。『ブラスト』の前は声優の専門学校に通っていたとのこと。三〇台。どことなく消防士っぽい。爽やか。
ふたりとも素晴らしい経歴の持ち主なんで、劇団員からは歓声が上がってました。そりゃ五条氏とかいう未経験のクソ雑魚とは比べ物になりませんわ。
そんな感じで見学四回目のセミプロ見学者は見向きもされず、その日は弥生と大原くんのふたりに注目が集まっていた。おれはそれよりもその日読む台本が気になってたんだがな。う、うそじゃ……、ないよぉ?
そんな中、ヨシエさんがいった。
「そういや『アニキ』来てなくね?」
アニキと聞いて、ヨシエさんのお兄さんが来るのかと思ったのだが、どうやらそうではないらしかった。
というのも『ブラスト』には永野兄弟という兄弟が所属しているらしいのだ。特筆することがなくて、敢えて書かなかったのだけど、永野弟の『永野佑樹』さんは最初に見学した時からずっといて、おれが稽古場に入った一発目で、
「おっ、イケメンじゃん!」
といってきたファニーな人だった。まぁ、そんなファニーな人でありながらも『ブラスト』の副代表として劇団をまとめていた人で、その割にはヤバイほどの人見知りで、何か変な人だったワケだ。
で、その日はユーキさんのお兄さんが来るとのことだった。おれはあおいに、『兄貴』のことを訊ねた。
「あぁ、兄貴はね、ユーキさんのお兄さんで、プロの舞台屋として活躍してる人だよ」
とのことらしい。プローー即ち、副業なしの舞台一本でメシを食っているということだ。
また凄い人が来るなぁと思わず緊張。それから数分後、会議室のドアが開いた。
「いやぁ、ごめんごめん、遅くなった」
入ってきたのは、帽子を被り眼鏡を掛けた大柄の男性だった。その男性は少し伸びた髭に、全身黒づくめの服装という、どこか怪しい雰囲気を纏っていた。どうやら、この人が件の『兄貴』らしい。おれは、あおいに連れられ、兄貴に挨拶をしに行った。
「兄貴、こちら、最近見学に来てくれてる五条さん」あおいがおれを紹介した。
「五条です。ジョーって呼ばれてます。よろしくお願いします」
「あぁ、永野宏紀です。ジョーだね。よろしく」ヒロキさんがいった。
時間が押していたこともあって、ヨシエさんの音頭ですぐさま本読みの稽古へと移った。
この日読む台本はヒロキさん推薦の、某有名劇団のアクションシナリオだった。おれは、一応主役を読むことになったのだけど、
初っぱなでセリフの読み間違えですよ。
これには自分でもやってしまいましたなぁ、と笑うしかなく。ヒロキさんも、
「やってしまいましたねぇ……」
と呟きながら笑ってました。ほんと、やってしまいましたわ。
そんな中、弥生と大原さんは自分の経歴を遺憾無く発揮するが如く自分の芝居をしてまして、劇団員がどよめいてましたわ。
結局、本自体は結構早めに読み終わってしまい、もう一度、今度は配役を変えて読み直してみようということになった。おれは、今度は主役ではなく、悪の幹部の役をやったのだが、これまでと同じような芝居じゃ面白くないと思い、いつもよりはっちゃけたセリフ回しをしたのだ。そしたらーー、
見事にハマッた。
次に周りから感嘆されたのはおれでした。うん、してやったわ。お陰でヒロキさんも、
「お、いいじゃん」
と呟いてました。嬉しかった。プロの舞台屋に褒められるなんて、この上ない誉れだった。
稽古が終わると、殆どの劇団員は弥生と大原さんのもとへ激励にいったのですが、そんな中、
「今日の芝居、よかったじゃん。これからが楽しみだわ」とショージさん。
「今日はすごかったね。これからも頑張って!」とあおい。
「ジョー、うぇーい!」とユーキさんーー正直ワケがわからなかった。
そして、最後にヒロキさんーー
「うん、いいじゃん。センスあると思うよ」
もうこの上なく嬉しかった。正直、おれという人間は、人から求められもしなければ、賞賛されるような人材でもない。ただ、そんな中でひとりでも自分を評価してくれる人がいる。それでよかった。それだけでよかった。
稽古も終わり、またアフターが開かれることとなった。おれは、冷たい風に髪を靡かせ、夜闇に浮かぶ五村市駅を見つめていたーー
とまぁ、こんな感じだな。次回は、オリジナルシナリオ祭りって感じだな。
さて、明日も頑張ろうか!
アスタラビスタ!
いねえよといわれたらそれまでなんだけど、人間、生きていたらひとりはそういう人に出会う機会があると思うのだ。中には、本当はそういう存在だが、自分がそうと認知していないこともあるだろう。
かくいうおれには「師」と呼べる存在が五人くらいいる。いすぎだろ、と思われるかもしれないし、何でそんなに多いのかといわれたら、シンプルにジャンルが違うからだ。
勉学の師、人格の師、音楽の師、居合の師、そして最後が「芝居の師」だ。
さて、昨日の続きである。あらすじーー「強敵の出現に苦戦する城茂は、新たなる敵の大元帥と対峙する。が、それは罠だった。なんと、大元帥は城茂を誘き寄せ、遠く離れた場所にある石油コンビナートを爆破するという計画を部下である鎧騎士に託していたのだ。コンビナートを爆破しようとする鎧騎士。が、その計画を食い止める者がいた。それは、ギリシャから帰って来た『神敬介』だった!」
いつも以上に長いあらすじに、このエッセイの常連である神敬介が城茂を助けに登場してしまったのだけど、まだまだ何のことかはいわない。あ、興味ないですか。じゃあ、勝手にやっときますわ。
まぁ、本チャンのあらすじとしては、二度目の稽古見学にて立野さんという劇団員と出会い、立野さんのオリジナル台本を読んでこころが踊ったのだが、立野さんは諸事情により劇団を辞めることになり、おれはどこか寂しい気分になったのだ。
パーフェクトやね。正直、何で寂しい気分になったのかは自分でもわからん。まぁ、純粋だったんじゃねぇの?
では、始めてくーー
熱があった。芝居をやりたいという熱が。もっと色々な役をやりたい。好奇心は無限に跳ね上がり、おれを熱狂させる。おれは熱にうなされていた。そうーー
マジで熱が出てしまったのだ。
もうね、バカじゃねぇのって感じなんだけど、この時期、何故か体調がすこぶる悪かったんよな。そんなこともあって、一週、稽古に参加はできず。その翌週は参加できたのだけど、そこでもまだ入団はせず。代わりにショージさんが劇団に復団してました。
もはや三回も見学にくると、ヨシエさんにも
「いつ入んのよ」
と圧を掛けられるようになっておりまして。
更に翌週。おれとしては四回目の稽古見学だったんだが、見学も四回目ともなると随分と雑に扱われるようになっていて、思わず自分が見学者だとアピールしたくもなったのだけど、それはどうでもいい。
重要なのは、その日の稽古には、おれ以外にもふたりの見学者が来たということだ。ひとりは女性で、もうひとりは男性。
女性のほうは、名前を『河村弥生』といった。弥生はあおいの中学時代の友人で、中学の演劇部の部長であり、看板女優だったという。見た目はリスに似てる。
男性のほうは、『大原武明』。『ブラスト』の前は声優の専門学校に通っていたとのこと。三〇台。どことなく消防士っぽい。爽やか。
ふたりとも素晴らしい経歴の持ち主なんで、劇団員からは歓声が上がってました。そりゃ五条氏とかいう未経験のクソ雑魚とは比べ物になりませんわ。
そんな感じで見学四回目のセミプロ見学者は見向きもされず、その日は弥生と大原くんのふたりに注目が集まっていた。おれはそれよりもその日読む台本が気になってたんだがな。う、うそじゃ……、ないよぉ?
そんな中、ヨシエさんがいった。
「そういや『アニキ』来てなくね?」
アニキと聞いて、ヨシエさんのお兄さんが来るのかと思ったのだが、どうやらそうではないらしかった。
というのも『ブラスト』には永野兄弟という兄弟が所属しているらしいのだ。特筆することがなくて、敢えて書かなかったのだけど、永野弟の『永野佑樹』さんは最初に見学した時からずっといて、おれが稽古場に入った一発目で、
「おっ、イケメンじゃん!」
といってきたファニーな人だった。まぁ、そんなファニーな人でありながらも『ブラスト』の副代表として劇団をまとめていた人で、その割にはヤバイほどの人見知りで、何か変な人だったワケだ。
で、その日はユーキさんのお兄さんが来るとのことだった。おれはあおいに、『兄貴』のことを訊ねた。
「あぁ、兄貴はね、ユーキさんのお兄さんで、プロの舞台屋として活躍してる人だよ」
とのことらしい。プローー即ち、副業なしの舞台一本でメシを食っているということだ。
また凄い人が来るなぁと思わず緊張。それから数分後、会議室のドアが開いた。
「いやぁ、ごめんごめん、遅くなった」
入ってきたのは、帽子を被り眼鏡を掛けた大柄の男性だった。その男性は少し伸びた髭に、全身黒づくめの服装という、どこか怪しい雰囲気を纏っていた。どうやら、この人が件の『兄貴』らしい。おれは、あおいに連れられ、兄貴に挨拶をしに行った。
「兄貴、こちら、最近見学に来てくれてる五条さん」あおいがおれを紹介した。
「五条です。ジョーって呼ばれてます。よろしくお願いします」
「あぁ、永野宏紀です。ジョーだね。よろしく」ヒロキさんがいった。
時間が押していたこともあって、ヨシエさんの音頭ですぐさま本読みの稽古へと移った。
この日読む台本はヒロキさん推薦の、某有名劇団のアクションシナリオだった。おれは、一応主役を読むことになったのだけど、
初っぱなでセリフの読み間違えですよ。
これには自分でもやってしまいましたなぁ、と笑うしかなく。ヒロキさんも、
「やってしまいましたねぇ……」
と呟きながら笑ってました。ほんと、やってしまいましたわ。
そんな中、弥生と大原さんは自分の経歴を遺憾無く発揮するが如く自分の芝居をしてまして、劇団員がどよめいてましたわ。
結局、本自体は結構早めに読み終わってしまい、もう一度、今度は配役を変えて読み直してみようということになった。おれは、今度は主役ではなく、悪の幹部の役をやったのだが、これまでと同じような芝居じゃ面白くないと思い、いつもよりはっちゃけたセリフ回しをしたのだ。そしたらーー、
見事にハマッた。
次に周りから感嘆されたのはおれでした。うん、してやったわ。お陰でヒロキさんも、
「お、いいじゃん」
と呟いてました。嬉しかった。プロの舞台屋に褒められるなんて、この上ない誉れだった。
稽古が終わると、殆どの劇団員は弥生と大原さんのもとへ激励にいったのですが、そんな中、
「今日の芝居、よかったじゃん。これからが楽しみだわ」とショージさん。
「今日はすごかったね。これからも頑張って!」とあおい。
「ジョー、うぇーい!」とユーキさんーー正直ワケがわからなかった。
そして、最後にヒロキさんーー
「うん、いいじゃん。センスあると思うよ」
もうこの上なく嬉しかった。正直、おれという人間は、人から求められもしなければ、賞賛されるような人材でもない。ただ、そんな中でひとりでも自分を評価してくれる人がいる。それでよかった。それだけでよかった。
稽古も終わり、またアフターが開かれることとなった。おれは、冷たい風に髪を靡かせ、夜闇に浮かぶ五村市駅を見つめていたーー
とまぁ、こんな感じだな。次回は、オリジナルシナリオ祭りって感じだな。
さて、明日も頑張ろうか!
アスタラビスタ!