【冷たい墓石で鬼は泣く~拾玖~】

文字数 1,173文字

 まるで閃光のようだった。

 睨むわたしに、死んだような目をした馬乃助ーーその姿はとても対照的だったと思う。そしてそれは、同時にわたしと馬乃助の腕の差が歴然としていることを意味していると無意識に感じた。

 だが、ここで馬乃助を逃せば、もう二度と出会うことはないかもしれない。結果として、そういうことはなかったのだが、だがこの時は、わたしと馬乃助の関係がこれっきりになってしまうと思えてならなかったのだ。

 わたしは刀を上段に構えた。と、それに合わせるように馬乃助は下段に構えた。わたしは動けなくなってしまった。これは馬乃助の手だ。下段に構えれば、その分、頭を含めた上半身ががら空きになる。とはいえ、相手だって刀を持っているのだから、そんな不注意のようなことは起こり得ないだろうという意見だってあるだろう。だが、案外そうでもない。

 刀が下がっていることと頭及び上半身ががら空きになっているとでは、明らかに後者のほうに目がいきがちになる。これは弱者、特に不注意な者こそがよく引っ掛かる。弱い者、不注意な者は目の前に美味な草団子を置かれれば、何の躊躇いもなく飛び付いてしまう。これは目の前の転がる好機だけにしか注目していないからだ。馬乃助はそんなマヌケな武士たちを何人も打って来た。

 だが、わたしはーーその考えも実は危険だとわかっていた。

 馬乃助は、わたしが馬乃助がよく使う手をよく知っていることを知っている。だからこそ、馬乃助はこの手を使ったのではないか、ということだ。そうすることで、わたしは馬乃助がどのような手で動こうとしているかを推測しようとする。その果てに、わたしはーー

 ダメだ、今がまさにその状況ではないか。

 考えてはいけない。少なくとも馬乃助はわたしが馬乃助の戦法を知っていることを知っているのだ。ということは、この硬直の時間、これこそが馬乃助の狙い。ヤツは待ち続けるだろう。そして、わたしが痺れを切らしたその時、攻撃を仕掛け、そして打たれるーーそうに違いない。

 が、わたしは呆気に取られた。

 馬乃助は突如、刀を下げたままわたしのほうへと歩み寄って来たのだ。

 バカな。わたしはこころの中で動揺した。そんなはずは。馬乃助の表情は一切ぶれない。ただ凍りついたように死んだ表情を貫き通している。わたしの顔は震えていた。恐らく腕も脚も、口許もーー

 わたしは焦燥感でいっぱいになった。下、そして胴はまずダメだ。馬乃助の刀が明らかに邪魔になっており、攻めようにも反撃を食らいかねない。だが、上段も同じ。結局、わたしには策はーー

 あった。

 突如閃いたとんでもない考えにぼくの瞳孔は開いた。これだ、これしかない。わたしも馬乃助のほうへと歩み寄っていった。そして、上段に構えた刀を一気に中断に下ろし、その勢いで思い切り馬乃助の喉元を突いた。

 弾けるーー

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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