【ナナフシギ~死拾伍~】
文字数 1,059文字
誰にだって辛いことはある。
それは生きていれば当然のことだからだ。だが、逆にいえばそれは生きていることが前提条件となっているのではないか、といわれれば、それはそれで首を傾げざるを得ない。
「......は?」少女は呆然といった。「何いってんの......?」
少女のことばに対してエミリは溢れんばかりの涙を目に溜めて首を縦に振った。
「とても......、辛かったでしょう?」
エミリの質問に少女は尚も呆然とするばかりだった。が、その感情を振り払うように、
「......バカいうなよ! お前何かに何がわかるっていうんだよ!」
「わかるよ......ッ!」涙声ではあるが、エミリはハッキリといった。「だって、辛いことがなかったら、そんなキツイ表情は出来ないし、人に向かって死ねなんて簡単にはいえないモン!」
祐太朗はハッとした。少女も同様だったが、バカ馬鹿しいといわんばかりに笑って見せ、苦し紛れにことばを返した。
「だったら、何だっていうんだよ。そんなのアンタには関係ないでしょ!」
「うん、関係ないよ......」エミリはいった。「だって、わたしとアナタは今ここで会ったばかりだし、アナタの苦しみはアナタだけのモノだから、わたしにはわからない」
祐太朗もこのことばには驚きを隠せなかった。寄り添うようなことばを掛けたと思ったら、突然に相手を突き放すようなエミリの物言いから彼女の意図をくみ取ることが難しく思えたのだろう。少女もそのようだった。
「は? 何だよお前」声が震えていた。「まるでわたしを心配しているみたいな感じのこといったかと思えば、わたしのことなんかどうでもいいみたいなこといって。可笑しいんじゃねえの!?」
「ううん」エミリは首を横に振った。「わたしがいいたいのはそういうことじゃないんだ」
「じゃあどういうことなんだよ!」
「アナタには、わたしがこれまで味わって来た苦しさや悲しさのことがわかる?」
エミリの問いは再びその場に静寂をもたらした。わかるワケがない。その静寂はそう物語っていた。誰だって人の苦しみがどれ程のモノかなどわかり得るワケがないのだ。祐太朗はそのやり取りを傍観するだけでありながら、そうであることを知っているといわんばかりに真剣な表情を浮かべていた。
「......わからないよね」エミリは寂しげな笑みを浮かべていった。「わたしもわからないもん。人って他の人の痛みには鈍感だから。でもね、どんなに鈍感でも心配することは出きる。寄り添うことは出来るんだよ」
少女は目を見開いてエミリを見た。
【続く】
それは生きていれば当然のことだからだ。だが、逆にいえばそれは生きていることが前提条件となっているのではないか、といわれれば、それはそれで首を傾げざるを得ない。
「......は?」少女は呆然といった。「何いってんの......?」
少女のことばに対してエミリは溢れんばかりの涙を目に溜めて首を縦に振った。
「とても......、辛かったでしょう?」
エミリの質問に少女は尚も呆然とするばかりだった。が、その感情を振り払うように、
「......バカいうなよ! お前何かに何がわかるっていうんだよ!」
「わかるよ......ッ!」涙声ではあるが、エミリはハッキリといった。「だって、辛いことがなかったら、そんなキツイ表情は出来ないし、人に向かって死ねなんて簡単にはいえないモン!」
祐太朗はハッとした。少女も同様だったが、バカ馬鹿しいといわんばかりに笑って見せ、苦し紛れにことばを返した。
「だったら、何だっていうんだよ。そんなのアンタには関係ないでしょ!」
「うん、関係ないよ......」エミリはいった。「だって、わたしとアナタは今ここで会ったばかりだし、アナタの苦しみはアナタだけのモノだから、わたしにはわからない」
祐太朗もこのことばには驚きを隠せなかった。寄り添うようなことばを掛けたと思ったら、突然に相手を突き放すようなエミリの物言いから彼女の意図をくみ取ることが難しく思えたのだろう。少女もそのようだった。
「は? 何だよお前」声が震えていた。「まるでわたしを心配しているみたいな感じのこといったかと思えば、わたしのことなんかどうでもいいみたいなこといって。可笑しいんじゃねえの!?」
「ううん」エミリは首を横に振った。「わたしがいいたいのはそういうことじゃないんだ」
「じゃあどういうことなんだよ!」
「アナタには、わたしがこれまで味わって来た苦しさや悲しさのことがわかる?」
エミリの問いは再びその場に静寂をもたらした。わかるワケがない。その静寂はそう物語っていた。誰だって人の苦しみがどれ程のモノかなどわかり得るワケがないのだ。祐太朗はそのやり取りを傍観するだけでありながら、そうであることを知っているといわんばかりに真剣な表情を浮かべていた。
「......わからないよね」エミリは寂しげな笑みを浮かべていった。「わたしもわからないもん。人って他の人の痛みには鈍感だから。でもね、どんなに鈍感でも心配することは出きる。寄り添うことは出来るんだよ」
少女は目を見開いてエミリを見た。
【続く】