【一年三組の皇帝~死拾睦~】
文字数 1,229文字
ギャンブル中毒というのは恐ろしいモノなんだそうだ。
ニュースの特集で観たのだけど、それはもはや廃人も同然。自分の身体を売ってでも勝負がしたいという欲に駈られてしまうのだそうだ。目的は勝つことじゃない。それはまるで矛盾しているようだけど、そういう人が求めているのは、もはや勝つことではなく、勝負することーーそして、それで得られるスリルと興奮だけなんだそう。
人間、興奮すると頭の中でナントカっていうホルモンがたくさん出るらしい。そういった人たちは勝負をすることで、そういった快楽を得るためのホルモンで頭の中を焼かれているのだと思う。でなければ、そんなリスクを背負ってまで、自分の失ってはいけない何かを賭けてまで勝負をしようとは思わないはずだ。
そして、ぼくも今、そんなギャンブルのスリルや興奮で頭を焼かれたようになっている。カードを机の上に置くまでの世界が遅くなった感覚と、心臓が高鳴るこの緊張感はそう簡単には味わえない。恐らく、スポーツや何かの勝負ごとでもこういった感覚はあるにはあるのだろうけど、こっちのほうが手軽。
何よりも負けたら破滅する。この事実が恐怖という快感をもたらす。確か、人を好きになる感情と恐れる感情は似たようなモノなのだそうだ。もしかしたら、快感と恐怖は紙一重なのかもしれない。だからこそ、そういったのが好みの人がいるのだろう。
ぼくは大きく息をつきながらも、内心ではモノ凄く興奮していた。
エース。
ぼくが机に置いたカードはダイヤの1だった。つまり、この場でいちばん強いのは。
「林崎くんの勝ちだね」
関口はいった。それからゆっくりと波立つように歓声と呻き声が聴こえて来た。それはぼくの身体にとてつもなく大きな鳥肌をもたらした。勝った実感はそう早くは生まれない。ゆっくりと内側に浸透していって、静かに勝利を噛み締めてようやく自分が勝ったことを知るのだから。
そう、ぼくは勝ったのだ。
安心感と共に快感がぼくの脳を、身体を焼く。気持ちいい。ぼくはーー
ダメだ。
みんな、この感覚にやられて来たのだ。身体を焼かれ、脳を焼かれて、穴の奥へと手を突っ込んで腕を切り落とされてしまったのだ。
そして、この勝利は何よりも関口たちの策略のひとつなのだとわかりきっていた。カモを育てるには、勝利の快楽を味合わせてやればよい。一度その快感に全身を焼かれてしまえば、後はそれをもう一度味わいたくなり何度でも勝負を繰り返すようになる。
ビギナーとして最初に勝ったーー勝たされたが正しいのだけど、そんなことには気づけないーーという実績があるのだから、余計に退く理由はなくなってしまう。
みんなそうだった。
ネイティブで負けていった人たちはみんな、最初は勝ったのだ。田宮も、辻たち三人もそうだったそうだ。そして、今、ぼくは勝っている。恐らく、今日は負けることはないだろう。何故なら、ぼくは今飼育されているカモなのだから。
ぼくは今一度大きく深呼吸した。
【続く】
ニュースの特集で観たのだけど、それはもはや廃人も同然。自分の身体を売ってでも勝負がしたいという欲に駈られてしまうのだそうだ。目的は勝つことじゃない。それはまるで矛盾しているようだけど、そういう人が求めているのは、もはや勝つことではなく、勝負することーーそして、それで得られるスリルと興奮だけなんだそう。
人間、興奮すると頭の中でナントカっていうホルモンがたくさん出るらしい。そういった人たちは勝負をすることで、そういった快楽を得るためのホルモンで頭の中を焼かれているのだと思う。でなければ、そんなリスクを背負ってまで、自分の失ってはいけない何かを賭けてまで勝負をしようとは思わないはずだ。
そして、ぼくも今、そんなギャンブルのスリルや興奮で頭を焼かれたようになっている。カードを机の上に置くまでの世界が遅くなった感覚と、心臓が高鳴るこの緊張感はそう簡単には味わえない。恐らく、スポーツや何かの勝負ごとでもこういった感覚はあるにはあるのだろうけど、こっちのほうが手軽。
何よりも負けたら破滅する。この事実が恐怖という快感をもたらす。確か、人を好きになる感情と恐れる感情は似たようなモノなのだそうだ。もしかしたら、快感と恐怖は紙一重なのかもしれない。だからこそ、そういったのが好みの人がいるのだろう。
ぼくは大きく息をつきながらも、内心ではモノ凄く興奮していた。
エース。
ぼくが机に置いたカードはダイヤの1だった。つまり、この場でいちばん強いのは。
「林崎くんの勝ちだね」
関口はいった。それからゆっくりと波立つように歓声と呻き声が聴こえて来た。それはぼくの身体にとてつもなく大きな鳥肌をもたらした。勝った実感はそう早くは生まれない。ゆっくりと内側に浸透していって、静かに勝利を噛み締めてようやく自分が勝ったことを知るのだから。
そう、ぼくは勝ったのだ。
安心感と共に快感がぼくの脳を、身体を焼く。気持ちいい。ぼくはーー
ダメだ。
みんな、この感覚にやられて来たのだ。身体を焼かれ、脳を焼かれて、穴の奥へと手を突っ込んで腕を切り落とされてしまったのだ。
そして、この勝利は何よりも関口たちの策略のひとつなのだとわかりきっていた。カモを育てるには、勝利の快楽を味合わせてやればよい。一度その快感に全身を焼かれてしまえば、後はそれをもう一度味わいたくなり何度でも勝負を繰り返すようになる。
ビギナーとして最初に勝ったーー勝たされたが正しいのだけど、そんなことには気づけないーーという実績があるのだから、余計に退く理由はなくなってしまう。
みんなそうだった。
ネイティブで負けていった人たちはみんな、最初は勝ったのだ。田宮も、辻たち三人もそうだったそうだ。そして、今、ぼくは勝っている。恐らく、今日は負けることはないだろう。何故なら、ぼくは今飼育されているカモなのだから。
ぼくは今一度大きく深呼吸した。
【続く】