【燃え尽きろ、こころの奥まで】

文字数 4,019文字

 マジな話をすると、運動が苦手だ。

 二日続けて「苦手だ」から始まるとか、どういう感性してんだって感じなんだけど、おれはどうも運動というものと親和性が皆無なのだ。

 昨日も書いたけど、一応はおれも筋トレをしている人間だ。とはいえ、筋トレをしてるから運動ができるわけではない。筋トレはあくまで、身体活動の補強にしかならないのだ。

 だったら筋トレなんかする必要ないじゃんといわれたら、それは大間違いだ。てか、筋トレに関してもまた書かなきゃな。書くことが多くて当分更新のネタには困らんな。

 じゃあ、何で筋トレなんか始めたのか、といわれると、理由はふたつある。

 ひとつは、シュワルツェネッガーに憧れたからだ。当時小学生だったおれはテレビの洋画劇場にてブラウン管を縦横無尽に駆け回るシュワルツェネッガーが大好きだったのだ。それこそフロントスリーパーから身体を上下に揺さぶれば、本当に首の骨を折れると思っていたくらいにーー折れないらしいけどな。

 他にもスタローンやヴァンダム、ブルース・ウィリスにドルフ・ラングレン、セガールも好きで、小学生のおれはそんなアクションスターに憧れて微力ながら筋トレを始めたのだ。

 とはいえ、所詮はヒョロガリでろくに運動もしてこなかったクソガキが、ちょっと身体を鍛えたぐらいでビルドアップできるのかというと、そんなことはなく、何となく身体が引き締まったかなぐらいの感じにしかならなかった。まぁ、何もしないよかマシか。

 次にふたつ目の理由だが、単刀直入に運動ができなかったコンプレックスだ。

 当時のおれの運動のできなさは中々にヤバく、走るのは遅いし、持久力はないし、動きも鈍臭くて、足の早いガキがハーレムを築く小学校というコミュニティでは、おれはえたひにんも同然の存在だったのだ。

 だが、さっきもいったように、筋トレは運動の補強くらいにしかならない。筋トレをしたからといって運動が格段にできるようになるわけではないのだ。うーん、残念。

 まぁ、それからも筋トレは何となくは続け、それなりには身体も大きくはなったのだけど、運動自体は未だに苦手なままだったりする。

 見た目のイメージのせいか、よく「サッカー部だったでしょ?」といわれるのだが、残念、中学は卓球部、高校はバドミントン部でした。

 運動歴はそのふたつに加え、幼少の頃にやっていた水泳とサッカー、体操、そして現在やっている居合ぐらい。

こう並べてみると、運動エリートのようだが、そもそもが楽をすることばかり考えている五条氏なので、それなりの腕前を持てたと自負できるのも今やっている居合だけで、他はもはややってなかったのとほぼほぼ変わらない。

 当然、大会で入賞なんてのも夢のまた夢で、入賞したなんて経験は、それこそ居合の大会の個人戦で三位入賞と優勝したことくらい。

 しかも、いってしまえば、武道とか格闘技って、運動センスとはまた違うというか。それもあってか、いくら上手くても運動ができることに直結はしないのが殆どだったりする。

 そりゃあ、おれだって運動ができるようになりたいさ。体育のサッカーの授業で、イキがるサッカー部……みたいにはなりたくないな。でもな、おれだって、爽やかな汗を掻きながら全身を躍動させてクールなプレイをしたいのだ。

 それは、この世の運動音痴たちの夢だと、おれは思っている。どんなに強がろうと、みな、運動ができるようになりたいはずなのだ。

 しかし、運動音痴の現実は厳しい。笑えないくらいにしんどいのはわかりきっている。

 あれは中学三年の時のことだ。その当時はまだ三年生になって間もなく、数ヶ月後には担任の策にハマって体育祭の応援団長を務めなきゃならなくなるなんて、この時は思ってもいなかった。それはさておきーー

 新しい年度が始まり、新しい学年が始まると、決まって行われるのが「体力測定」だ。まぁ、いうまでもないと思うけど、おれはこの体力測定の記録が絶望的にダメだったのだ。

 握力、持久力、ジャンプ力、すべてにおいてカス! こりゃ、もう生涯運動なんかできるようにはなりませんわって感じで、おれももうため息しか出なかったんだけど、そんな中でも本当に嫌いだったのがーー

 短距離走だ。

 これがもう本当にダメ。それだったらまだ持久走のほうがマシだった。

 こんなことは説明するまでもないけど、筋肉には大きく分けて二種類ある。

 ひとつは「速筋」だ。これは瞬間的に大きな力を発揮できる大きな筋肉で、持久力はないが、短距離走のような短いスパンで終わる競技では必須となる。

 もうひとつは「遅筋」。これは速筋とは逆で、瞬間的な力強さはないが、長時間何かをする際に重要となる細い筋肉だ。この「遅筋」は、いうまでもなく、持久走のような持久力を要する競技にてマストとなる。

 おれは、そのどちらの筋肉も大してなかったのだが、「速筋」に比べると、まだ「遅筋」のほうがまだマシで、まったく走れないワケでもなかった。

 だからこそ、短距離走は鬼門だった。が、おれ以上にヤバいヤツがひとりいたのだ。

 彼の名前は、「つよし」という。

 つよしは、となりのクラスの生徒でーーちなみに、体育の授業はふたクラス合同で行っていたーー、中学二年の時に越してきたのだが、初めて見た時は、その立端のよさにえらく驚いたモノだった。

というのも、身長も一八〇センチをゆうに超え、ガタイもよかったのだ。まぁ、オタクっぽい装いに、人前では呟くようにしか話せず、挙げ句の果てにチクリ魔ということもあって、生徒間ではどこか煙たがられていたのだけど。

 そのつよしなんだが、もはや笑ってはいけないレヴェルで運動音痴だったのだ。ボールには弄ばれ、持久走は時速八〇〇メートルレベルの超低速で走り、ジャンプをすれば階段一段分ほどでの高さで足が引っ掛かる。これには誰もが絶句し、つよしと同じチームでスポーツをやるとなると、みなひざまづいて敗北の土を舐めることを確信するのはいつものことだった。

 おれは別につよしのことをバカにしていたワケではないのだが、つよしが短距離走を如何にして走るのか、少し興味があって、自分の番を終えると、ゴール付近で待機しながらつよしの番を待っていたのだ。

 測定は進み、そしてとうとうつよしが走る番となった。

 おれは固唾を飲み、つよしを見守った。

 位置について、よーい……

 銃声。

 総員、一斉に走り出す。つよしも。がーー、

 遅い。

 他のヤツらはニンジンに飛びつく馬のように速いのに、つよしは相変わらずの時速八〇〇メートルの速さで走っているではないか。これ、短距離走だぞ?

 これにはおれも絶句してしまい、ゆったりと進む時間に、明らかにイラついている体育教師のチンピラが、絶妙に対になっていて可笑しな光景だった。

 一〇〇メートルのトラックを四五秒くらい掛けて走り切ったつよしだったのだが、体育教師のチンピラはそれには満足せず、つよしにこういい放ったのだ。

「お前、ふざけてんのか? スタートに戻ってもう一回走れ。全力で走らない限り何度でもやらせるからな」

 まぁ、確かにふざけてるようにしか見えんよな。一〇〇メートルを走るタイムじゃないし。

 そうしてつよしはスタート地点に戻り、ひとりだけ位置についたのだ。

 位置について、よーい。

 炸裂音。

 遅い。

 相変わらずの遅さ。もう、周りのヤツらも隠すことなく普通に笑っているし、体育教師のチンピラもブチギレて、

「おいッ! テメエふざけてんのか! 全力で走れっていったろうが!」

 とつよしとの距離を詰めていく始末。見た目はARBの石橋凌にそっくりなんだけど、まぁ、色んな要素がもうチンピラなんよな。

 そんなことをいわれたもんだから、つよしもブルってしまいまして、再度スタート地点へ戻り、スタンバイ。

 位置について、よーい……

 破裂。

 何と、今度はつよしも普通のペースで走っている。周りの生徒と比べると明らかに遅いのだが、さっきと比べると天と地の差だった。

 結局、つよしは一〇〇メートルを二〇秒と少しで走りきり、その場に倒れ込んだ。チンピラもこれには納得したらしく、

「まぁ、いいだろ。全然遅いけどな」

 と余計なひとことを加えて次の準備に取り掛かろうとしたのだ。がーー、

 つよしが中々起きないのだ。

 これには周りもざわめき、チンピラも早く立てと声を荒げたのだけど、つよしは穴の空いた空気入れのようにヒューヒュー呼吸するばかりで、全然動かない。よく見ると、顔も青白い。これには流石にみんな焦り、最終的にはーー

 救急車を呼んだのだ。

 一〇〇メートルを一回全力疾走して倒れると書くと、まぁ、バカっぽくみえるけど、その時はそれどころではなかった。

 というわけで、すぐに救急車が来て、担任の教員とともにつよしは運ばれていったのだ。

 不安を胸に、その日は終わったのだが、翌日になるとつよしは普通に学校にきてました。

 本人には訊けないので、仲のいい友人に原因は何だったのか訊ねてみるとーー、

「あぁ、酸欠と疲労だって」

 どういうことなの……。

 そこでわかってしまったのだ。世界には一〇〇メートルを五秒台で走る化け物もいれば、一〇〇メートルで酸欠と疲労で倒れるヤツもいる。この世界は基本的に不平等なのだ、と。

 それからもつよしは体育の度にトンデモナイことをやらかしていましたが、チンピラには怒られなくなっていました。また、酸欠になられたら敵わないだろうしな。

 運動はホドホドに。



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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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