【ナナフシギ~漆拾漆~】
文字数 695文字
平和ボケしたスズメのさえずりの中、電話のスピーカーを通した声が無機質に響いた。
「......してねえよ」不自然な沈黙の後に祐太朗は答えた。「また岩淵に変なこと吹き込まれたのか?」
「岩淵がどうとか、ひとこともいってないぞ」
祐太朗はハッとした。表情に動揺が見て取れた。祐太朗はゴクリとツバを飲んで答えた。
「岩淵だったら何かあればアンタにいうだろ。そんなこと訊いて来るんなら、岩淵に何か吹き込まれたって考えるのが自然じゃねえのか?」
苦し紛れの返答とはいえ、それはそれで間違いはなかった。まず岩淵なら昨日のことを祐太朗の両親に報告すると考えるのが自然だ。しかし、岩淵は何もいっていないという。何故。父はいった。
「......それもそうだな。だが、岩淵は今ここにいないし、電話もない」
それが本当だとしたらーーいや、そんなことでウソをついたところで何の意味もないことを考えたら間違いなく真実だろう。だとしたら、誰がそんなことを。
「来てないって、連絡もつかないのかよ」
「いや、連絡はしてない。どうせ来る」
「傲慢な考え方だな。人から嫌われるからやめたほうがいいぞ」
「人を食った話し方だな。人から嫌われるからやめたほうがいいぞ」
おうむ返しするように父はいった。祐太朗は図星をつかれつつも苦し紛れのように「うるせぇ」と答えた。だが、父は冷めた様子で続けた。
「そもそも息子のお前にそんなアドバイスされる覚えはない」
「父親のクセに育児放棄してるお前に偉そうなこといわれる覚えもないけどな」祐太朗は仕返しするようにいった。「で、誰がそんなことを吹き込んだんだよ」
「弓永さんだ」
祐太朗は青ざめた。
【続く】
「......してねえよ」不自然な沈黙の後に祐太朗は答えた。「また岩淵に変なこと吹き込まれたのか?」
「岩淵がどうとか、ひとこともいってないぞ」
祐太朗はハッとした。表情に動揺が見て取れた。祐太朗はゴクリとツバを飲んで答えた。
「岩淵だったら何かあればアンタにいうだろ。そんなこと訊いて来るんなら、岩淵に何か吹き込まれたって考えるのが自然じゃねえのか?」
苦し紛れの返答とはいえ、それはそれで間違いはなかった。まず岩淵なら昨日のことを祐太朗の両親に報告すると考えるのが自然だ。しかし、岩淵は何もいっていないという。何故。父はいった。
「......それもそうだな。だが、岩淵は今ここにいないし、電話もない」
それが本当だとしたらーーいや、そんなことでウソをついたところで何の意味もないことを考えたら間違いなく真実だろう。だとしたら、誰がそんなことを。
「来てないって、連絡もつかないのかよ」
「いや、連絡はしてない。どうせ来る」
「傲慢な考え方だな。人から嫌われるからやめたほうがいいぞ」
「人を食った話し方だな。人から嫌われるからやめたほうがいいぞ」
おうむ返しするように父はいった。祐太朗は図星をつかれつつも苦し紛れのように「うるせぇ」と答えた。だが、父は冷めた様子で続けた。
「そもそも息子のお前にそんなアドバイスされる覚えはない」
「父親のクセに育児放棄してるお前に偉そうなこといわれる覚えもないけどな」祐太朗は仕返しするようにいった。「で、誰がそんなことを吹き込んだんだよ」
「弓永さんだ」
祐太朗は青ざめた。
【続く】