【帝王霊~玖拾漆~】
文字数 1,033文字
年を取れば取るほどに体力はなくなっていくモノだ。
ましてやおれくらいの年齢になってくると階段をのぼるのにも息切れを起こすような人も普通にいる。おれも運動の習慣があるとはいえ、肉体は少しずつだが疲労や凝りに蝕まれ、身体は基本的に岩のように重い。体重が増えたのもあるが、にしても、動くのが億劫になってきたし、体調も日に日に悪くなっているのも悲しい現実だ。
中学時代は体力のない子供だった。間違いなく今のほうが運動能力も体力もある。だが、内から来るエネルギーはもはやそこにはない。おれのエンジンは脂とアルコールで錆びついていた。
だが、それはあくまでおれの話だ。
おれとヤエ先生の前に現れたのは何処か大人びた雰囲気のある少女だった。先生というくらいだから、いうまでもなく中学生ーーシンゴちゃんや行方不明のハルナちゃんの同級生だろう。肩口くらいまである黒髪に鋭く大きな目が印象的。身長は160を少し超すくらいはあるだろうか。余程走ったのだろう、相当息を切らしている様子だった。しかし、内なるエネルギーはまだ彼女の中で咆哮している様子だった。
「いずみちゃん!」ヤエ先生がいった。「どうしたの!?」
いずみという名前にはピンと来た。シンゴちゃんが演劇部の仲間としてよく名前を出す子だ。いずみは肩で息を切っていった。
「......シンゴが」
なかなかことばにならないようだった。ことばを急いてしまいたくなりはしたが、焦れば焦るほどに思考も意識も崩れて行く。
「シンゴちゃんが、どうした?」
おれはゆっくりした口調でリズムを作ろうとした。それが良かったのか、いずみは何とか呼吸を整えて続きを口にした。
「シンゴがひとりで......、どっか行っちゃった」
その瞬間、ぼくの抱いていた不安が現実になった。やはり、シンゴちゃんはひとりで突っ走ってしまったか。彼の性格を考えたらわかっていたことなのに。おれはこころの中で呪詛のことばを叫んだ。
「何処へ行ったの!?」
ヤエ先生は半分狂乱するような様子でいった。いずみはそれとは対極的にゆっくりと口を開いた。
いずみがいうには、さっきまでおれらと一緒にいた関口少年がシンゴちゃんに送ったメールで、シンゴちゃんは血相を変えて何処かへ走って行ってしまったということだったーー家に帰れということばとともに。
最悪だ。あらゆることが地獄を経由している。吐き気がする。何だってこんなについてないのか。神が目の前にいたら殺してやりたい気分だった。
【続く】
ましてやおれくらいの年齢になってくると階段をのぼるのにも息切れを起こすような人も普通にいる。おれも運動の習慣があるとはいえ、肉体は少しずつだが疲労や凝りに蝕まれ、身体は基本的に岩のように重い。体重が増えたのもあるが、にしても、動くのが億劫になってきたし、体調も日に日に悪くなっているのも悲しい現実だ。
中学時代は体力のない子供だった。間違いなく今のほうが運動能力も体力もある。だが、内から来るエネルギーはもはやそこにはない。おれのエンジンは脂とアルコールで錆びついていた。
だが、それはあくまでおれの話だ。
おれとヤエ先生の前に現れたのは何処か大人びた雰囲気のある少女だった。先生というくらいだから、いうまでもなく中学生ーーシンゴちゃんや行方不明のハルナちゃんの同級生だろう。肩口くらいまである黒髪に鋭く大きな目が印象的。身長は160を少し超すくらいはあるだろうか。余程走ったのだろう、相当息を切らしている様子だった。しかし、内なるエネルギーはまだ彼女の中で咆哮している様子だった。
「いずみちゃん!」ヤエ先生がいった。「どうしたの!?」
いずみという名前にはピンと来た。シンゴちゃんが演劇部の仲間としてよく名前を出す子だ。いずみは肩で息を切っていった。
「......シンゴが」
なかなかことばにならないようだった。ことばを急いてしまいたくなりはしたが、焦れば焦るほどに思考も意識も崩れて行く。
「シンゴちゃんが、どうした?」
おれはゆっくりした口調でリズムを作ろうとした。それが良かったのか、いずみは何とか呼吸を整えて続きを口にした。
「シンゴがひとりで......、どっか行っちゃった」
その瞬間、ぼくの抱いていた不安が現実になった。やはり、シンゴちゃんはひとりで突っ走ってしまったか。彼の性格を考えたらわかっていたことなのに。おれはこころの中で呪詛のことばを叫んだ。
「何処へ行ったの!?」
ヤエ先生は半分狂乱するような様子でいった。いずみはそれとは対極的にゆっくりと口を開いた。
いずみがいうには、さっきまでおれらと一緒にいた関口少年がシンゴちゃんに送ったメールで、シンゴちゃんは血相を変えて何処かへ走って行ってしまったということだったーー家に帰れということばとともに。
最悪だ。あらゆることが地獄を経由している。吐き気がする。何だってこんなについてないのか。神が目の前にいたら殺してやりたい気分だった。
【続く】