【モテ男はつらいよ】
文字数 2,971文字
モテるのは非常に面倒だ。
一度でいいからそんなこといってみたいとも思うけど、おれは案外モテるのだ。誰にってチンピラに。そう、よく絡まれるのだ。
何か想像してたのと違うぞと思われるかもしれないけど、まぁ、これもある意味ではモテるってことだからな。ちなみに女子からモテたことはないです。困ったモンだ。
そんな感じでおれがモテない理由といえばシンプルに性格が悪いし、見た目が悪いというのもあるだろう。
まぁ、性格の悪さに関してはこの駄文集をコンスタントに読んでいる変わり者からしたら二秒で頷くレベルだと思う。そう、
おれ、性格悪いんよ。すまんね。
あと見た目の悪さだけど、これは不細工だとか顔の造りがヘドロ以下とかそういうのとはまたベクトルが違って、色んな女子から話を聞くところによれば、強面で見るからに凶暴そうな見た目だからなのだとか。
ちなみに昔の彼女にいわれたのは、
「目が合った瞬間殴ってきそうな見た目だったから最初は恐かった」
とのこと。何だよ、目が合った瞬間殴ってきそうって。社会不適合どころかおれの居場所は塀の向こうって感じじゃんか。
そんな感じでおれは本当にモテないのだけど、そんなおれでもモテてしまったことがある。今日はそれについて書いていこうかと思う。ちなみに『ごむリン篇』だ。あらすじーー
『リハーサルの日、五条氏は五村芸術祭の実行委員長である森村さんの指導のもと、厳しい条件の中でリハーサルをこなしたのだった』
とまぁ、こんな感じ。じゃ、書いてくーー
芸術祭初日、五村市民会館にはたくさんの出店が出店されていた。ご当地グルメからちょっと怪しげな飲食物まで、そのラインナップは様々だ。おれは一階エントランスから入館し、合流場所で控え室となる会議室へと向かった。
会議室では既にテリーとあおいが待っていた。テリーの横にはごむリンの着ぐるみが脱け殻のように情けなく置かれていた。
ふたりとの挨拶を済ませると、熊川さんの所在を訊いた。が、どこかはわからないらしい。おれは熊川さんに電話を掛けたーー
「あ、五条くん、おはよう。……え、あぁ、ぼくなら二回のホールにいるから。……はい、じゃあよろしく」
おれは熊川さんからいわれたことをふたりに伝えた。何でも、ごむリンの格好をして上まで来て欲しいとのこと。
おれは早速ごむリンの脱け殻に袖を通し、ごむリンへと変装してあおいと共にホールの二階へと向かうことにした。
とはいえ頭がデカイだけあって会議室の出入りも地味に大変だった。普通に通ろうとすると横幅に引っ掛かりそうになるので、横を向いてカニ歩きで出入りしなければならない。
いざ部屋の外に出てみると今度は足許が見えずについついうつむき気味になってしまう。
「足許が見えねぇ」
まるで給食のおばさんの足の裏で配膳缶の熱さを計って顔面を陥没させられたどこぞの五歳児みたいないい分ではあるけど、うん、マジで足許が見えねぇ。とはいえ介助のあおいはーー
「ごむリンは喋っちゃダメです」
とひとこと。尤もなのだけど、困ったモノだった。足許が見えないからうつむき加減になる。うつむき加減になると頭が重力で落ちそうになる。マジで重力は◯ねーーとまぁ、困ったことの大バーゲンだった。
が、何よりも大変だったのは、
子供に滅茶苦茶モテモテなことだった。
おれは完全にこのごむリンを舐め腐っていた。五村とかいう埼玉の片田舎にある殆ど無名の都市で細々と存在しているマスコットがそんなに人気なワケがないーーそう思っていた。
が、現実は子供に取り囲まれ、
「ごむリンだぁ! ごむリンだぁ!」
と握手を求められたり、中には正面から抱きつかれたりしたのだ。スマン、抱きつくのはいいんだけど、キミの頭がおれの股間に当たってて本当に申し訳なくなるのよ。それにーー
これが中に入ってるのがコヨーテ似のチンピラとわかったら絶対訴えられるよな。
とはいえ、子供の親からもとてもよくして貰い、本当に助かった。よく着ぐるみキャラを殴るバカなガキがいるとのことだけど、そんなヤツはひとりもいなかったんで本当に良かった。
そんな感じで子供たちとバイバイして二階に向かったのだけど、途中の階段が恐怖以外の何物でもなかった。あおいに手を引いて貰いながら何とか一段ずつ上がったんだけど、あれ、介助というよりは完全な介護よな。
そんな感じで何とか階段を上がり切り、ここで一旦あおいと共に多目的トイレに入って休憩することに。今だったら男女で多目的トイレに入るというと色々と問題があると思われるのだけど、残念ながらあおいには一万円も渡してないし、脱いだのはパンツではなく、ごむリンの頭だったりするんでそこはモーマンタイ。
ごむリンの頭を脱ぐと、真冬だというのに汗だくになっていた。
「大丈夫?」あおいが訊ねる。
おれは正直に暑いといった。だが、暑いだけで、ごむリンとして徘徊するのがどこか楽しくなっていた。子供にモテモテなのはいうまでもなく、案外やってみると面白いもんだった。
というのも、子供たちと別れた後、二階に上がって足許の確認のためにうつむき、頭が落ちないように肘から先しか動かない腕で頭を押さえたのだけど、どういうワケか、その時に女の子たちから「かわいい!」の声が飛んだのだ。
最初は何故かよくわからなかったんだけど、おれはわかってしまったのだ。そう。うつむいて手で頭を押さえると、ごむリンが照れてるように見えるのだ。そりゃかわいいわな。
これは、ちょっとしたアクションやムーヴが意外な見え方に繋がって面白いぞ。そう感じた五条氏はそれから多目的トイレから出ると、
滅茶苦茶に動きまくった。
肘から先しか動かない腕を突き挙げたり、顔を押さえながら横に揺れてみたり、そんなアクションをホール内のそこらへんでやりまくった。すると、女性陣から「かわいい!」の声が飛びまくる飛びまくる。
楽しくて仕方なかった。
結局、熊川さんと合流したのは集合時間から一時間ほど経ってからだったのだけど、その時にはごむリンのムーヴを結構マスターし始めていた。好きこそモノの上手とは良くいったモンだ。まぁ、途中汚れた大人どもに、
「中にどんなヤツ入ってんの?」
とか
「中の人、大変でしょ?」
とかいわれたんだけど、おれはごむリンのかわいいムーヴをしつつ、不良漫画の八番手みたいな感じで、「大人は汚え!」と思ったのでした。大人は汚え!ーーおれも汚え大人!
結局、その日は多目的トイレで休憩しつつ、子供や婦女子にモテモテの一日を送りまして、担当時間を終えてごむリンの着ぐるみを脱ぐこととなったのでした。
面白かったのは、終わる頃にもなると、あおいは子供たちから「ごむリンのお姉さん」とかいわれるようになってたことだな。完全に定着しちゃってましたな。
「明日は大丈夫そう?」
控え室でテリーにそう訊かれたのだけど、それに対してあおいがいったのはーー
「多分、みんなが思っている以上にこのごむリン、かわいいよ。てか、超かわいいよ」
ということだった。おれは曖昧に苦笑いしつつも、その内容にウソ偽りがないことを祈った。何より問題は翌日の本番なのだからーー
とまぁ、今日はこんな感じ。次回は本番。最終回かな。そんな感じで。
アスタラビスタ。
一度でいいからそんなこといってみたいとも思うけど、おれは案外モテるのだ。誰にってチンピラに。そう、よく絡まれるのだ。
何か想像してたのと違うぞと思われるかもしれないけど、まぁ、これもある意味ではモテるってことだからな。ちなみに女子からモテたことはないです。困ったモンだ。
そんな感じでおれがモテない理由といえばシンプルに性格が悪いし、見た目が悪いというのもあるだろう。
まぁ、性格の悪さに関してはこの駄文集をコンスタントに読んでいる変わり者からしたら二秒で頷くレベルだと思う。そう、
おれ、性格悪いんよ。すまんね。
あと見た目の悪さだけど、これは不細工だとか顔の造りがヘドロ以下とかそういうのとはまたベクトルが違って、色んな女子から話を聞くところによれば、強面で見るからに凶暴そうな見た目だからなのだとか。
ちなみに昔の彼女にいわれたのは、
「目が合った瞬間殴ってきそうな見た目だったから最初は恐かった」
とのこと。何だよ、目が合った瞬間殴ってきそうって。社会不適合どころかおれの居場所は塀の向こうって感じじゃんか。
そんな感じでおれは本当にモテないのだけど、そんなおれでもモテてしまったことがある。今日はそれについて書いていこうかと思う。ちなみに『ごむリン篇』だ。あらすじーー
『リハーサルの日、五条氏は五村芸術祭の実行委員長である森村さんの指導のもと、厳しい条件の中でリハーサルをこなしたのだった』
とまぁ、こんな感じ。じゃ、書いてくーー
芸術祭初日、五村市民会館にはたくさんの出店が出店されていた。ご当地グルメからちょっと怪しげな飲食物まで、そのラインナップは様々だ。おれは一階エントランスから入館し、合流場所で控え室となる会議室へと向かった。
会議室では既にテリーとあおいが待っていた。テリーの横にはごむリンの着ぐるみが脱け殻のように情けなく置かれていた。
ふたりとの挨拶を済ませると、熊川さんの所在を訊いた。が、どこかはわからないらしい。おれは熊川さんに電話を掛けたーー
「あ、五条くん、おはよう。……え、あぁ、ぼくなら二回のホールにいるから。……はい、じゃあよろしく」
おれは熊川さんからいわれたことをふたりに伝えた。何でも、ごむリンの格好をして上まで来て欲しいとのこと。
おれは早速ごむリンの脱け殻に袖を通し、ごむリンへと変装してあおいと共にホールの二階へと向かうことにした。
とはいえ頭がデカイだけあって会議室の出入りも地味に大変だった。普通に通ろうとすると横幅に引っ掛かりそうになるので、横を向いてカニ歩きで出入りしなければならない。
いざ部屋の外に出てみると今度は足許が見えずについついうつむき気味になってしまう。
「足許が見えねぇ」
まるで給食のおばさんの足の裏で配膳缶の熱さを計って顔面を陥没させられたどこぞの五歳児みたいないい分ではあるけど、うん、マジで足許が見えねぇ。とはいえ介助のあおいはーー
「ごむリンは喋っちゃダメです」
とひとこと。尤もなのだけど、困ったモノだった。足許が見えないからうつむき加減になる。うつむき加減になると頭が重力で落ちそうになる。マジで重力は◯ねーーとまぁ、困ったことの大バーゲンだった。
が、何よりも大変だったのは、
子供に滅茶苦茶モテモテなことだった。
おれは完全にこのごむリンを舐め腐っていた。五村とかいう埼玉の片田舎にある殆ど無名の都市で細々と存在しているマスコットがそんなに人気なワケがないーーそう思っていた。
が、現実は子供に取り囲まれ、
「ごむリンだぁ! ごむリンだぁ!」
と握手を求められたり、中には正面から抱きつかれたりしたのだ。スマン、抱きつくのはいいんだけど、キミの頭がおれの股間に当たってて本当に申し訳なくなるのよ。それにーー
これが中に入ってるのがコヨーテ似のチンピラとわかったら絶対訴えられるよな。
とはいえ、子供の親からもとてもよくして貰い、本当に助かった。よく着ぐるみキャラを殴るバカなガキがいるとのことだけど、そんなヤツはひとりもいなかったんで本当に良かった。
そんな感じで子供たちとバイバイして二階に向かったのだけど、途中の階段が恐怖以外の何物でもなかった。あおいに手を引いて貰いながら何とか一段ずつ上がったんだけど、あれ、介助というよりは完全な介護よな。
そんな感じで何とか階段を上がり切り、ここで一旦あおいと共に多目的トイレに入って休憩することに。今だったら男女で多目的トイレに入るというと色々と問題があると思われるのだけど、残念ながらあおいには一万円も渡してないし、脱いだのはパンツではなく、ごむリンの頭だったりするんでそこはモーマンタイ。
ごむリンの頭を脱ぐと、真冬だというのに汗だくになっていた。
「大丈夫?」あおいが訊ねる。
おれは正直に暑いといった。だが、暑いだけで、ごむリンとして徘徊するのがどこか楽しくなっていた。子供にモテモテなのはいうまでもなく、案外やってみると面白いもんだった。
というのも、子供たちと別れた後、二階に上がって足許の確認のためにうつむき、頭が落ちないように肘から先しか動かない腕で頭を押さえたのだけど、どういうワケか、その時に女の子たちから「かわいい!」の声が飛んだのだ。
最初は何故かよくわからなかったんだけど、おれはわかってしまったのだ。そう。うつむいて手で頭を押さえると、ごむリンが照れてるように見えるのだ。そりゃかわいいわな。
これは、ちょっとしたアクションやムーヴが意外な見え方に繋がって面白いぞ。そう感じた五条氏はそれから多目的トイレから出ると、
滅茶苦茶に動きまくった。
肘から先しか動かない腕を突き挙げたり、顔を押さえながら横に揺れてみたり、そんなアクションをホール内のそこらへんでやりまくった。すると、女性陣から「かわいい!」の声が飛びまくる飛びまくる。
楽しくて仕方なかった。
結局、熊川さんと合流したのは集合時間から一時間ほど経ってからだったのだけど、その時にはごむリンのムーヴを結構マスターし始めていた。好きこそモノの上手とは良くいったモンだ。まぁ、途中汚れた大人どもに、
「中にどんなヤツ入ってんの?」
とか
「中の人、大変でしょ?」
とかいわれたんだけど、おれはごむリンのかわいいムーヴをしつつ、不良漫画の八番手みたいな感じで、「大人は汚え!」と思ったのでした。大人は汚え!ーーおれも汚え大人!
結局、その日は多目的トイレで休憩しつつ、子供や婦女子にモテモテの一日を送りまして、担当時間を終えてごむリンの着ぐるみを脱ぐこととなったのでした。
面白かったのは、終わる頃にもなると、あおいは子供たちから「ごむリンのお姉さん」とかいわれるようになってたことだな。完全に定着しちゃってましたな。
「明日は大丈夫そう?」
控え室でテリーにそう訊かれたのだけど、それに対してあおいがいったのはーー
「多分、みんなが思っている以上にこのごむリン、かわいいよ。てか、超かわいいよ」
ということだった。おれは曖昧に苦笑いしつつも、その内容にウソ偽りがないことを祈った。何より問題は翌日の本番なのだからーー
とまぁ、今日はこんな感じ。次回は本番。最終回かな。そんな感じで。
アスタラビスタ。