【藪医者放浪記~百拾~】

文字数 726文字

 とにかく面倒なことばかりだった。

 源之助の目の前には倒れた守山の姿があった。それに対して源之助は特に心配することもなく、ただ溜め息をひとつついた。

 玄関のほうへズカズカと向かって行く守山。そのまま向かわせてしまえば間違いなく面倒なことが起こる。そもそも表に同心の斎藤がいることもあってその場は大事にはならないだろうが、問題はその後である。

 まず間違いなく、玄関へ行けば、その場にいる老人が医者だということがわかるだろう。それも道具を盗まれた医者ということが。そうなれば、恐らく守山はこう考えるだろう。

「医者ならば邸の中にいる。だが、玄関にいる老人が本物の医者ならば、邸の中にいる医者は何者なのだ。もしや、邸の中に入って何かを企んでいるのではないか。そして、老人の道具を盗んだのは、松平邸に潜り込むために男が盗んだのではないか。だとしたらーー」

 ということである。だとしたら最悪で、かつ全然ありうる話だった。そもそも話の流れを全然追えていない守山を野放しにしたら、それこそどんな誤解をするかもわからない。誤解を解こうにも、この頭の固いわからず屋に何をいってもなかなか話は進まないだろうし、順庵の振りをした男を切り捨てかねない。だとしたら、こうするより他になかった。

 源之助の右手にはサイが握られていた。源之助は玄関のほうへと向かおうとする守山の頭をサイで殴ったのだった。もちろん本気でなく、ある程度の加減はしたのでまず死ぬことはないだろう。源之助は愛刀の『狂犬』に付いていた下緒をほどき、屋敷の陰にある柱に後ろ手に、手と柱を結びつけた。声を上げられたら困るので、懐に入れてあった手拭いを口の中に突っ込んで。

 さて、向かおうーー源之助は呟いた。

 【続く】

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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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