【帝王霊~百弐拾捌~】
文字数 666文字
実家ーーそれは本来こころの落ち着く場所のはずだった。
だが、今も昔も祐太朗にとっては窮屈以外の何モノでもない場所なのはいうまでもなかった。両親がスピリチュアル系のセミナーを始め、それが軌道に乗り始めてからはまともに子育てする余裕もなく、子供たちは学校に比較的近いマンションの一室で岩淵の管理のもと暮らしていた。
別に実家を出る理由はなかった。だが、祐太朗は出たいといった。祐太朗は実家の景色が大嫌いだった。毎日死んだ魚のような目をした信者たちが押し掛けて『修行』と称して狂ったように拝み倒している。そして、それに対し自分たちが神のように振る舞っている両親。祐太朗にとって、それは子供の頃から嫌悪の対象でしかなかった。
自分の問題を自分で解決出来ない人たち。自分の問題を神の手に委ねる無責任な人たち。神に拝む暇があるなら、やれることなどいくらでもある。お金がなければ、仕事をするか投資で増やすしかない。仕事がなければ求人を見て現場に赴くしかない。頭が悪ければ勉強するしかない。子供に問題があるならしっかりと対話するしかない。だが、この実家で拝み倒している信者たちはそれらをすべて放棄し、思考停止の果てに神に問題の解決を委ねている。そこに神など存在せず、しかもそこにいる神がインチキだとも思わずに。
祐太朗は両親に何の力もないことをわかっていた。自分や詩織、和雅と違い、霊能力をまったく持っていない、と。
そして、今日、その神にとどめを刺す日が来たのかもしれなかった。祐太朗は教祖室の前へ来、ドアを開けたーー
目を見開いた。
【続く】
だが、今も昔も祐太朗にとっては窮屈以外の何モノでもない場所なのはいうまでもなかった。両親がスピリチュアル系のセミナーを始め、それが軌道に乗り始めてからはまともに子育てする余裕もなく、子供たちは学校に比較的近いマンションの一室で岩淵の管理のもと暮らしていた。
別に実家を出る理由はなかった。だが、祐太朗は出たいといった。祐太朗は実家の景色が大嫌いだった。毎日死んだ魚のような目をした信者たちが押し掛けて『修行』と称して狂ったように拝み倒している。そして、それに対し自分たちが神のように振る舞っている両親。祐太朗にとって、それは子供の頃から嫌悪の対象でしかなかった。
自分の問題を自分で解決出来ない人たち。自分の問題を神の手に委ねる無責任な人たち。神に拝む暇があるなら、やれることなどいくらでもある。お金がなければ、仕事をするか投資で増やすしかない。仕事がなければ求人を見て現場に赴くしかない。頭が悪ければ勉強するしかない。子供に問題があるならしっかりと対話するしかない。だが、この実家で拝み倒している信者たちはそれらをすべて放棄し、思考停止の果てに神に問題の解決を委ねている。そこに神など存在せず、しかもそこにいる神がインチキだとも思わずに。
祐太朗は両親に何の力もないことをわかっていた。自分や詩織、和雅と違い、霊能力をまったく持っていない、と。
そして、今日、その神にとどめを刺す日が来たのかもしれなかった。祐太朗は教祖室の前へ来、ドアを開けたーー
目を見開いた。
【続く】