【湿気た花火~参~】
文字数 601文字
夕方、玄関のドアを開けると懐かしいにおいと熱気が吹き出して来た。
この押し寄せてくる熱気はきっと、昔経験した色んなモノが肉体に記憶として甦って来ているんだと、ふと思った。
「あれ、どうしたの?」
母が奥から顔を出してそういった。あまりにも珍しく顔を出したモノだから呆気に取られているのかもしれない。おれは何と答えるか迷ったが、迷った結果、何もいわずにそのまま一階のリビングのほうへと歩いていった。久しぶりの景色を眺め回すが、如何せんそれも母とおれのふたりではリビングダイニングキッチンも広すぎた。
「帰るならいってくれればいいのに」
連絡したところでスマホを見ないのはわかりきっていた。だからこそ、連絡しても無駄だとわかっていた。おれはただ、うんと頷くだけだった。
音がした。
目をやると、ブチのネコが不思議そうな目でこっちを見ていた。名前は「リク」。ミーハーな両親が、その当時人気だった子役の名前をそのまま付けたのが由来だ。その名前の元ネタの子役のリクも、今では立派な高校生タレントとして順調にやっているようだった。
リクはゆったりとおれのほうへ歩み寄って来たかと思うと、いつの間にか大きくなった身体をおれの脚に擦りつけた。彼と一緒に住んでいたのは大学卒業からパニックが治まるまでの五年弱くらいだったが、今でもおれのことを覚えているらしい。
「おかえり、だって」
母のことばが妙に照れ臭かった。
【続く】
この押し寄せてくる熱気はきっと、昔経験した色んなモノが肉体に記憶として甦って来ているんだと、ふと思った。
「あれ、どうしたの?」
母が奥から顔を出してそういった。あまりにも珍しく顔を出したモノだから呆気に取られているのかもしれない。おれは何と答えるか迷ったが、迷った結果、何もいわずにそのまま一階のリビングのほうへと歩いていった。久しぶりの景色を眺め回すが、如何せんそれも母とおれのふたりではリビングダイニングキッチンも広すぎた。
「帰るならいってくれればいいのに」
連絡したところでスマホを見ないのはわかりきっていた。だからこそ、連絡しても無駄だとわかっていた。おれはただ、うんと頷くだけだった。
音がした。
目をやると、ブチのネコが不思議そうな目でこっちを見ていた。名前は「リク」。ミーハーな両親が、その当時人気だった子役の名前をそのまま付けたのが由来だ。その名前の元ネタの子役のリクも、今では立派な高校生タレントとして順調にやっているようだった。
リクはゆったりとおれのほうへ歩み寄って来たかと思うと、いつの間にか大きくなった身体をおれの脚に擦りつけた。彼と一緒に住んでいたのは大学卒業からパニックが治まるまでの五年弱くらいだったが、今でもおれのことを覚えているらしい。
「おかえり、だって」
母のことばが妙に照れ臭かった。
【続く】