【冷たい墓石で鬼は泣く~死重死~】

文字数 1,020文字

 その飛脚が大した腕ではないのはすぐにわかった。

 そもそも飛脚自体が戦闘時に前衛から特攻するような下級武士だ。腕が立つならば、もう少し特別な扱いをされて然るべきだろう。

 それに加えてこの飛脚の握られた拳と口許が震えていたところを見るに、随分と恐れを抱いていたように見えた。力の入りすぎと考えても良かったかもしれないし、感情が高ぶり過ぎたかかもしれなかったが、力が入りすぎていれば身体の動きは鈍るし、感情に左右されがちであれば本質を見誤る。いずれにせよ、この飛脚が大した腕ではないことは明らかだったーーもちろん、わたしがいえたことではないのだが。

 にしても、何だかんだ色んな人と稽古を共にしたのはわたしにとっていい経験になったのだと思った。以前ならば誰かと対峙した時はわたしもいらぬ震えと緊張があったというのに、今となってはそれもない。きっと、たくさんの人と手合わせしたこと、それによって明らかに自分の腕が良くなったことで自信が付いたからだったに違いない。それにーー

「貴殿はあまり早抜き、居合の類いは得意ではないな?」

 わたしがいうと、飛脚は明らかな動揺を見せた。が、すぐにフッと笑って見せ、

「そんなこと、どうしてわかる?」

「貴殿の刀だ」わたしはいった。「まず致命的なのが柄巻。刀は何度も持っていると柄巻が擦れて痕が残る。貴殿の柄巻がその握り癖とどれだけ稽古に打ち込んでいるかがわかる。そのほつれ具合から見て、あまり刀は使わないのだろう。そして、そのほつれの範囲の狭さ。どう見ても握り方が悪い。きっと、横から掴むようにして、かつ人差し指と中指に力を入れて握っているのだろう」

 そういうと、飛脚は完全に見透かされた、といわんばかりの反応を見せた。そんなことに構うことなく、わたしは更に続けた。

「更にその鞘のコジリだ。先端がそれほど剥げてしまっているのは、そこばかり何かにぶつけているからだ。おそらく、良くコジリを地面につけるのだろう。だが、そんなことをすれば刀に負担が行く。自分の腰に差しているお供の負担になるようなことを平気でして、いざという時に得物がダメになったらということを考えていない証拠だ。それにその鯉口あたりの生糸と漆だ。早抜きの真似をして鞘を割り、それを米ぬかとそれらで貼り付けたのだろう。でなければーー」

 わたしはハッとした。イヤな予感が的中した。わたしは一気に立ち上がり、刀の鞘に忍ばせた手裏剣を引き抜き、投げたーー

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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