【一年三組の皇帝~壱~】
文字数 1,200文字
五月の始めは深緑の木の葉がとても印象的だった。
寒さも去り、春のポカポカした陽気がとってもここちよかった。ぼくは放課後のやや茜色に染まった陽の光を浴びながら職員室へと向かっていた。そう、ヤエちゃんに生活安全委員のことで呼び出しを食らっているのだ。といっても、別に怒られるワケでもなく、単純にその週のクラスの中で何か可笑しなことはなかったか、という報告をしに行くことになっていた。
ほんと、こういうと完全な密告者、スパイみたいで気分が悪い。人のことをチクるのは好きじゃないし、自分も褒められた生徒ではないのでとても気が引けるのはいうまでもない。春奈のような優等生ならまだしもーーまぁ、あんなこころ優しい春奈にも気の重い仕事だとは思うけど。
ちなみに今、春奈とは一緒にいない。それは互いが互いに一緒にいることで変なウワサが立つのを避けるためだ。どうもみんな小学校の高学年にもなると恋愛というモノに興味というか憧れを持ち始めるらしく、中学生になると大人への階段を一段のぼった気にもなるのか、やたらとその感じは顕著になる。
そして、男女がふたりでいれば、必ずといっていいほど変なウワサは立つモノだ。それはすなわち、ぼくと春奈が付き合っているのではないか、ということだ。それは生活安全委員としてもあまりよろしいことではなかった。
というのも、そんなウワサが立てば、ぼくと春奈が一緒にいるだけで注目の的になってしまう。そうともなれば、それだけで生活安全委員としてに仕事がしづらくなるのはいうまでもない。それに、春奈のようなかわいい女子とウワサが立てば、たくさんの男子から顰蹙を買うだろうし、ぼく自身も何だか恥ずかしくて廊下を歩くのも肩身が狭くなりそうだから。
そんなこともあって、ぼくはひとりで人気のない廊下を歩いて職員室へと向かっていたワケだ。放課後、周りは部活中だ。部活に入っていないぼくのようなイレギュラーはとっくに家に帰っている。つまり、今こそが生活安全委員にとって都合のいい時間帯、ということになる。
そんなワケで生活安全委員という名のスパイであるぼくは、放課後の廊下を優雅に歩いていたワケだ。とーー
突然、怒号が響き渡った。
女子のモノだった。何をいっているかは声が潰れていてよくわからなかったが、場所はすぐそばの教室のようだった。ぼくはビクッとしつつ、恐る恐る怒号の聞こえた教室の中をドアのガラスから覗いた。
教室の中には女子が何人かいた。ひとりを数人が囲んでいる形になっている。うわぁ、これは生活安全委員の案件だぞ。ぼくはウンザリしつつもそのやりとりを動画に収めようとスマホを胸ポケットから取り出しーー
「おい、何やってんだよ」
突然、キツイ口調がぼくに向かって飛んできた。すぐ横。マズイ、バレたか。ぼくは声のしたほうをパッと向いた。
背の高い、ショートカットの女子が仁王立ちしていた。
【続く】
寒さも去り、春のポカポカした陽気がとってもここちよかった。ぼくは放課後のやや茜色に染まった陽の光を浴びながら職員室へと向かっていた。そう、ヤエちゃんに生活安全委員のことで呼び出しを食らっているのだ。といっても、別に怒られるワケでもなく、単純にその週のクラスの中で何か可笑しなことはなかったか、という報告をしに行くことになっていた。
ほんと、こういうと完全な密告者、スパイみたいで気分が悪い。人のことをチクるのは好きじゃないし、自分も褒められた生徒ではないのでとても気が引けるのはいうまでもない。春奈のような優等生ならまだしもーーまぁ、あんなこころ優しい春奈にも気の重い仕事だとは思うけど。
ちなみに今、春奈とは一緒にいない。それは互いが互いに一緒にいることで変なウワサが立つのを避けるためだ。どうもみんな小学校の高学年にもなると恋愛というモノに興味というか憧れを持ち始めるらしく、中学生になると大人への階段を一段のぼった気にもなるのか、やたらとその感じは顕著になる。
そして、男女がふたりでいれば、必ずといっていいほど変なウワサは立つモノだ。それはすなわち、ぼくと春奈が付き合っているのではないか、ということだ。それは生活安全委員としてもあまりよろしいことではなかった。
というのも、そんなウワサが立てば、ぼくと春奈が一緒にいるだけで注目の的になってしまう。そうともなれば、それだけで生活安全委員としてに仕事がしづらくなるのはいうまでもない。それに、春奈のようなかわいい女子とウワサが立てば、たくさんの男子から顰蹙を買うだろうし、ぼく自身も何だか恥ずかしくて廊下を歩くのも肩身が狭くなりそうだから。
そんなこともあって、ぼくはひとりで人気のない廊下を歩いて職員室へと向かっていたワケだ。放課後、周りは部活中だ。部活に入っていないぼくのようなイレギュラーはとっくに家に帰っている。つまり、今こそが生活安全委員にとって都合のいい時間帯、ということになる。
そんなワケで生活安全委員という名のスパイであるぼくは、放課後の廊下を優雅に歩いていたワケだ。とーー
突然、怒号が響き渡った。
女子のモノだった。何をいっているかは声が潰れていてよくわからなかったが、場所はすぐそばの教室のようだった。ぼくはビクッとしつつ、恐る恐る怒号の聞こえた教室の中をドアのガラスから覗いた。
教室の中には女子が何人かいた。ひとりを数人が囲んでいる形になっている。うわぁ、これは生活安全委員の案件だぞ。ぼくはウンザリしつつもそのやりとりを動画に収めようとスマホを胸ポケットから取り出しーー
「おい、何やってんだよ」
突然、キツイ口調がぼくに向かって飛んできた。すぐ横。マズイ、バレたか。ぼくは声のしたほうをパッと向いた。
背の高い、ショートカットの女子が仁王立ちしていた。
【続く】