【ナナフシギ~死拾捌~】

文字数 1,189文字

 遊んでいる暇などないのはわかっていた。

 だが、そういう時だからこそ集中出来なかったり、娯楽に逃避したくなってしまうことは当たり前のようにある話だ。そして、それは人の命が掛かっていてもーーむしろ、強いプレッシャーに押し潰されそうな時ほど、現実から逃避したいと思うモノだろう。

 弓永と森永はプールの出入口前で立ち止まって話し合っていた。というのも、次に行くべき場所は何処か、ということだ。

 ナナフシギの場所といえば、理科実験室、音楽室、家庭科室、職員室、保健室、体育館、そしてもうひとつがーー

「プールだっていうのか」

 弓永が訊ねると森永は頷いた。

「そういやそうだった。ニセ鮫島だったり、暗いところから出たりで完全に忘れてた」

 極度の緊張は本当は意識すべき重要な点から意識をそらしがちだ。森永が忘れるのも無理はなかった。だが、それを聞いた弓永はどうも納得出来ない様子だった。

「お前さぁ、それ本気でいってる?」

「当たり前だろ!?」

「当たり前に聞こえねえんだよ。大体、これが人体模型とか骸骨標本だとか、二宮金次郎だとかいうんだったら全然納得出来るんだけどよ。プールでナナフシギって何があるんだよ。あんなクソ狭いプールからリヴァイアサンでも出て来んのか? 大体、あの鮫島は何だったんだよ。あの消えちまったのは本物じゃねぇんだろうし、アレがプールのナナフシギだっていうのか? 名前が鮫だけに水辺に出たとかそんな下らない話じゃねぇだろうな?」

「いや、違うだろ」森永は首を横に振った。「あの鮫島は関係ないと思う」

「ほんとかよ?」

「あぁ。てか、鮫だけに水辺とかつまんねぇぞ?」

 そう突っ込まれ、弓永は思わず口を閉ざした。それから弁明するようにして、

「......んなことはどうでもいいだろ。それより、プールで何があるっていうんだよ」

「あぁ、それな。人魚が出るんだってよ」

「人魚ぉッ!?」

 弓永の驚きを切っ掛けに辺りは水を打ったように静かになった。かと思いきや、弓永は腹を抱えて笑い出した。

「人魚とか、どうかしてんだろ! んなモンいるワケねぇじゃねえか!」

 そんな感じであまりにも弓永が笑うモノだから、森永も流石に不満そうだった。

「笑うなよ! おれだってウワサでしか聴いてねぇんだしさ!」尚も笑い続ける弓永ーー森永は顔を真っ赤にしていった。「あー! わかったよ! そんなに笑うなら確かめてみればいいんだろ! なぁ!」

 そういって森永は暗い更衣室へと戻るとプールへと続くドアを開け、プールへと向かっていってしまった。弓永は慌てて森永を追った。シャワースペースを通りプールへと着くと、森永が立ち尽くしていた。

「お前、あんま怒んなよ」

 だが、森永は怒るどころか呆然としていた。弓永がどうしたか訊ねると、森永はある一点を指差した。と、そこにはーー

 びしょ濡れの女がプールのへりに打ち上がっていた。

 【続く】





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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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