【夜闇にまぎれて~参~】
文字数 1,054文字
たまにではあるが、年末年始とかいう時期に左右されない場所がある。
というか、そういう場所はあまり思い付かないーーある一ヵ所を除いて。
恐らく、ここに来るのは二年ぶりとかになるだろう。ウイルス前はしょっちゅう通っていたが、ウイルス後は年変わりに一度行っただけで、それ以降は一度も行っていない。
外夢のイーストサイドはウエストサイドと違ってやたらとネオンが煌びやかな印象がある。大した店はないが、外夢のイーストサイドは中学生たちにとっては風俗街といわれている場所だったりする。とはいえ、あるのはピンサロぐらいで、あとはデリヘルを呼ぶのに最適なホテルがあるくらいだけど。
そんなリトル風俗街のイーストサイドは、地味にウエストサイドなんかよりも飲食店が揃っていたりする。そして、そんな飲食店の中でもかなり怪しげなネオンを纏い、金網の扉にアメリカナイズドされた外装がよく目立つのが、今のおれの目的地ーー『M19』というバーである。
M19というのは、知っている人は知っているだろうが、スミス&ウェッソン社の44口径マグナムリボルバーのことで、クリント・イーストウッドがダーティハリーで使用していた銃として有名だ。
では、何でバーの名前がそんな銃の名前なのかといわれれば、マスターであるケイさんがサバゲーマニアで、そんな中でも特に好きで、かつサバゲーでは不利といわれているリボルバーガスガンでゲームを続けていることが由来だったりする。
おれは久しぶりに『M19』へと足を踏み入れた。相変わらず、ガンガンとヒップホップが掛かっている。モニターには新春の特番が掛かっていて、店内にいる数名の客ーー全員常連だーーがのんびりとそれを眺めていた。
「いらっしゃい!」
ケイさんの声が響いた。相変わらずのドレッドヘアに細身の身体。おれは軽く手を挙げて会釈をした。すると、ケイさんは意外なモノを見たような顔をしていった。
「おぉ、お前、久しぶりじゃねぇか!」
そういわれると何だか気恥ずかしかった。ヘコヘコと頭を下げながらカウンター席に座った。
「最近来ねぇから、どうしてんのかと思ったよ。で、芝居のほうは順調?」おれが頷くとケイさんは、「なら良かった。前いた劇団辞めたんだってな。あそこのナントカさん?から聞いたよ。まぁ、それはさておき、何にする?」
おれはいつも通り『ボンド・マティーニ』を注文した。
「お前、久しぶりに来ていきなり面倒くせえよ! ま、久しぶりだし許してやるよ」
久しぶりの空気に、おれは思わず表情を綻ばせた。
【続く】
というか、そういう場所はあまり思い付かないーーある一ヵ所を除いて。
恐らく、ここに来るのは二年ぶりとかになるだろう。ウイルス前はしょっちゅう通っていたが、ウイルス後は年変わりに一度行っただけで、それ以降は一度も行っていない。
外夢のイーストサイドはウエストサイドと違ってやたらとネオンが煌びやかな印象がある。大した店はないが、外夢のイーストサイドは中学生たちにとっては風俗街といわれている場所だったりする。とはいえ、あるのはピンサロぐらいで、あとはデリヘルを呼ぶのに最適なホテルがあるくらいだけど。
そんなリトル風俗街のイーストサイドは、地味にウエストサイドなんかよりも飲食店が揃っていたりする。そして、そんな飲食店の中でもかなり怪しげなネオンを纏い、金網の扉にアメリカナイズドされた外装がよく目立つのが、今のおれの目的地ーー『M19』というバーである。
M19というのは、知っている人は知っているだろうが、スミス&ウェッソン社の44口径マグナムリボルバーのことで、クリント・イーストウッドがダーティハリーで使用していた銃として有名だ。
では、何でバーの名前がそんな銃の名前なのかといわれれば、マスターであるケイさんがサバゲーマニアで、そんな中でも特に好きで、かつサバゲーでは不利といわれているリボルバーガスガンでゲームを続けていることが由来だったりする。
おれは久しぶりに『M19』へと足を踏み入れた。相変わらず、ガンガンとヒップホップが掛かっている。モニターには新春の特番が掛かっていて、店内にいる数名の客ーー全員常連だーーがのんびりとそれを眺めていた。
「いらっしゃい!」
ケイさんの声が響いた。相変わらずのドレッドヘアに細身の身体。おれは軽く手を挙げて会釈をした。すると、ケイさんは意外なモノを見たような顔をしていった。
「おぉ、お前、久しぶりじゃねぇか!」
そういわれると何だか気恥ずかしかった。ヘコヘコと頭を下げながらカウンター席に座った。
「最近来ねぇから、どうしてんのかと思ったよ。で、芝居のほうは順調?」おれが頷くとケイさんは、「なら良かった。前いた劇団辞めたんだってな。あそこのナントカさん?から聞いたよ。まぁ、それはさておき、何にする?」
おれはいつも通り『ボンド・マティーニ』を注文した。
「お前、久しぶりに来ていきなり面倒くせえよ! ま、久しぶりだし許してやるよ」
久しぶりの空気に、おれは思わず表情を綻ばせた。
【続く】