【明日、白夜になる前に~漆拾四~】
文字数 975文字
結論からいえば、何ともなかった。
そう、ぼくの身体に異常や後遺症のようなモノは何ひとつ残らなかったということだ。確かに一度気を失った時に変な倒れ方はしたが、それも頭を変に打ったワケでもなかったし、彼女ーーカスミに何かされたワケでもない。
それもあって、ぼくはほんの少しの入院だけで何とか退院することが出来た。
入院中は色んな人からメッセージが来た。会社の人に昔の友人。一体何処でぼくがそんな目に遭ったと知ったのかはわからないが、それが仮に社交辞令的なことばであっても、ただそうやって声を掛けてくれるだけで、ぼくは嬉しかった。
ただ、すべてが嬉しい話、ということもなく、中にはちょっとショッキングな話もあった。
それはぼくが退院して会社に赴いた時の夜のことだった。ぼくはその日、退院祝いということで、小林さんと飲みに行った。小林さんは大層楽しそうにしていたが、ある瞬間になって唐突に神妙な顔つきとなった。
「どうしたんですか?」そう訊ねると、
「......中西くん、結婚するってさ」
ぼくはため息混じりに、そっかと呟いた。話によれば、ぼくとの関係に進展がなく、そんな中で新たな見合いの話があり、そこで関係が発展、婚約が決まったそうだ。
「......普通はキミに筋を通して、断りを入れてから新たな見合いを入れるモノだとは思うけど。彼女も焦っていたんだろうね。ごめんよ、こんなことになってしまって......」
ぼくは大丈夫といった。が、それよりぼくを紹介した小林さんのメンツが立たず、顔に泥を塗るような結果となってしまったのは、流石に申し訳なかった。
「わたしがいえることでもないのかもしれないけどーー」小林さんはそう前置きして続けた。「これはこれで良かったのかもしれないね」
ぼくにはその意味がわからなかった。が、小林さんの表情が何処か穏やかだったのは、小林さんが何処かぼくの身の上のことを安心して見ているといったように見えた。どういうことか訊ねてみたけど、小林さんは何もいわなかった。
それから、ぼくは弓永警部補からその後のことを聴かされることとなった。相変わらずの口汚いことば使いから吐き出される雑でありながら詳細な情報は、そうであるが故に余計にぼくのこころに浸透していった。
「......そうですか」
ぼくはうつむき、ことばを飲み込んだ。
【続く】
そう、ぼくの身体に異常や後遺症のようなモノは何ひとつ残らなかったということだ。確かに一度気を失った時に変な倒れ方はしたが、それも頭を変に打ったワケでもなかったし、彼女ーーカスミに何かされたワケでもない。
それもあって、ぼくはほんの少しの入院だけで何とか退院することが出来た。
入院中は色んな人からメッセージが来た。会社の人に昔の友人。一体何処でぼくがそんな目に遭ったと知ったのかはわからないが、それが仮に社交辞令的なことばであっても、ただそうやって声を掛けてくれるだけで、ぼくは嬉しかった。
ただ、すべてが嬉しい話、ということもなく、中にはちょっとショッキングな話もあった。
それはぼくが退院して会社に赴いた時の夜のことだった。ぼくはその日、退院祝いということで、小林さんと飲みに行った。小林さんは大層楽しそうにしていたが、ある瞬間になって唐突に神妙な顔つきとなった。
「どうしたんですか?」そう訊ねると、
「......中西くん、結婚するってさ」
ぼくはため息混じりに、そっかと呟いた。話によれば、ぼくとの関係に進展がなく、そんな中で新たな見合いの話があり、そこで関係が発展、婚約が決まったそうだ。
「......普通はキミに筋を通して、断りを入れてから新たな見合いを入れるモノだとは思うけど。彼女も焦っていたんだろうね。ごめんよ、こんなことになってしまって......」
ぼくは大丈夫といった。が、それよりぼくを紹介した小林さんのメンツが立たず、顔に泥を塗るような結果となってしまったのは、流石に申し訳なかった。
「わたしがいえることでもないのかもしれないけどーー」小林さんはそう前置きして続けた。「これはこれで良かったのかもしれないね」
ぼくにはその意味がわからなかった。が、小林さんの表情が何処か穏やかだったのは、小林さんが何処かぼくの身の上のことを安心して見ているといったように見えた。どういうことか訊ねてみたけど、小林さんは何もいわなかった。
それから、ぼくは弓永警部補からその後のことを聴かされることとなった。相変わらずの口汚いことば使いから吐き出される雑でありながら詳細な情報は、そうであるが故に余計にぼくのこころに浸透していった。
「......そうですか」
ぼくはうつむき、ことばを飲み込んだ。
【続く】